SDGsが授業のなかで「自分ごと」になる。勝山高等学校蒜山校地がいま、注目されるわけ。
里山SDGs 006 岡山県立勝山高等学校 蒜山校地
青空のもと、ふわりふわりと雪が舞っていました。
あたりは真っ白。日が照り返して眩しいぐらい。氷のわだちをザクザク進むと、やがて高校が見えてきました。
――岡山県立勝山高等学校 蒜山校地。
まもなく県内唯一となる「校地」。全校生徒は、46名。
その高校がいま、注目を集めています。キーワードは「SDGs」。
世界が抱えるさまざまな課題を解決するため、2030年までに17項目の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)を設定。それがSDGsです。
そんなSDGsのポイント。
世界規模のSDGsをいかに「自分ごと」として捉え、行動に移せるか。
勝山高校蒜山校地はいくつもの先進的な取り組みを通じて、生徒ひとりひとりがSDGsを自分ごととして捉え、行動変容に繋がっています。
……どうしてそんなことができるんだろう。
ふしぎに思い、取材をしていくと、「蒜山校地だから、できること」が見えてきました。
◆SDGsを「ただ知っている」から「行動に移す」へ。
取材に応じてくださったのは、進路指導課長 指導教諭の内田浩文先生。
お伺いすると、まず生徒たちが作成した資料の数々を見せてくださいました。
たとえば――。
SDGsのゴール12「つくる責任つかう責任」より、「日本では毎年、約600万トン」というタイトルで、食品ロスについて綴られた資料。
また、SDGsのゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」より、「私の性別」というタイトルで、LGBTや多様性について綴られた資料。
ほかにも、SDGsのゴール4「質の高い教育をみんなに」より、「教育格差が生活水準格差に関係するのか」というタイトルで、真庭市のこれからについて綴られた資料など。
先生から与えられたテーマはひとつもありません。
「はじめにSDGsの概要を伝えて。その後ふだん生徒たちがぼんやりと思っていた問題意識を、SDGsを通じて、自分たちで調べて言葉にしてもらいました」
問題意識を、SDGsを通じて言葉にしていく。国語の内田先生ならではの授業です。
また、資料の最後には「今、私たちにできること」の欄がありました。この欄こそ、内田先生が大切にしている「SDGsが自分ごとになる」ためのポイント。
「ただ知っている」から「行動に移す」への分岐点です。
その過程を、授業で体感できるわけです。
受験のための学力よりも、自分が社会の一員であることを知り、社会との接点も見つけられる。
高校というある意味閉ざされた空間から、社会と繋がりあえる「これからの生き方に繋がる授業」が展開されていました。
◆持続可能な開発のための教育「ESD」と、蒜山をさまざまな視点からひも解く「地域学」。
もともと内田先生は前任校から、高校生を連れて、ユネスコスクール(ASPnet:生徒の心のなかに平和のとりでを築く」ことを目指す、ユネスコが認定する学校の国際ネットワーク)の高校生フォーラムに参加するなど。長らくESDに携わってきた先生です。
ESD(Education for Sustainable Development)とは、持続可能な開発のための教育。「環境・経済・社会」というテーマを中心に、持続可能な次世代の担い手を育む教育です。
ちょっと難しいですが、平たく言えばSDGsの教育版です。
いかに、SDGsを子どもたちに伝え、育めるかということです。SDGsを教材として活用する。まさに内田先生の授業で行われていることでした。
また、授業のなかで「地域学」の考え方にも触れています。
ただし、地域学の一般的なイメージ「郷土愛を、先生から生徒へ伝えるだけ」のものではありません。
本来の「地域学」の考え方である「この蒜山という地域は、どういうところなのだろう?」を歴史・文化・環境・産業など、さまざまな視点からひも解く過程で、自然と郷土愛が生まれていく。内田先生は言います。
「蒜山が好きになるための地域学だけではなく、〈その地域をどう捉えるか〉を一緒に考えているので、蒜山に限定せず広く他の地域と接するときにも役立つんです」
◆地域の大人と接しながら、目的を持ち、自分たちのアイデアを形にしていく授業「蒜山Ⅱ」。
勝山高校蒜山校地には、「蒜山Ⅰ~Ⅲ」という学校設定教科があります。その中で、2年生が履修する科目が「蒜山Ⅱ」です。
その内容は、提案型インターンシップ。2020年度はSDGsに沿い、5チームに分かれてさまざまな取り組みを行いました。
――たとえば。生徒の皆さんは、次のように話してくれました。
・ハービルチーム
蒜山にあるハーブガーデン「ハービル」に、観光客用のフォトスポットを設置。SNS投稿への導線をつくることで、情報発信力を強化。ハービルをはじめ、蒜山への観光客が増えるように働きかけました。
・はにわの森チーム
林業から出る廃材を使い、蒜山のキャンプ施設「はにわの森」に憩いの場を設置。木がどういう自然サイクルをくり返しているのか。また廃材を使うことで、資源が循環する仕組みを体感しました。
・情報発信チーム
蒜山のPR動画「秋の蒜山ハッシュタグ」を制作。高校生ならではの視点、ハッシュタグで蒜山の風景を切り取っています。YouTubeで公開中。
地域の大人たち(個人も企業も)と接しながら、高校生たちが目的を持ち、自分たちのアイデアを形にしていく。この取り組みが、「蒜山Ⅱ」です。
高校生にお話を聞くと、行動ゆえの発見、悩み、チームで動く面白さと難しさなど、授業とは思えないほどの「社会の中での体感」を得ていました。
高校生たちが取り組んだ各テーマ。
――環境(廃材活用)・経済(観光客誘致)・社会(大人と一緒に取り組むということ)。
この「環境・経済・社会」というのは、SDGsのための教育である「ESD」のテーマとみごとにリンクしています。
◆蒜山校地だからできることは、SDGsを学ぶ機会の「身近さ」と「幅広さ」にある。
蒜山という地は、SDGs未来都市に早くから選ばれた真庭市のなかにあり、国立公園を含む雄大な自然環境、さらには岡山県下第2位の観光地。
生徒たちもふだんから観光産業と身近な関係にあります。観光産業の従事者が多いため、観光客が訪れる土日を避けて、平日に運動会を開催すると聞いたこともあります。(※川上地域・八束地域の小・中学校)
蒜山は、他の地域よりも「環境・経済・社会」が身近なのではないか。
勝山高校蒜山校地は、そんな「環境・経済・社会との身近さ」を生かした授業や取り組みを積極的に行っています。
だからこそ、いくつもの先進的な取り組みのなかで、生徒ひとりひとりもSDGsを自分ごととして捉えやすく、その結果「行動」変容に繋がっているのではないか。
内田先生は言います。
「私たちは生徒に、きっかけを与えることしかできません。だからこそ、できるだけいろんなきっかけを用意したいと思っています」
――蒜山校地だから、できること。
それは、これからの世界を担ううえで必要な、SDGsを学ぶ機会の「身近さ」と「幅広さ」にありました。そしてお話を聞いた高校生みんな、まっすぐで楽しそうでした。
文・取材:甲田 智之