
新卒で移住し、陶芸の道へ。特産品の樫西和紙を用いた「灯り玉」のイベントが地域で好評。【真庭市地域おこし協力隊 細見尚生】
地域おこし協力隊インタビュー002
「地域の人とお喋りしたり、意外な一面が見られたりするのが一番楽しい」。
そう語るのは、真庭市の落合地区や北房地区などで、地域おこし協力隊として陶芸活動をしている細見尚生さん。
大学で学んだ東山文化に惹かれ、陶芸活動に専念すべく新卒で真庭市へ移住した。現在は地域の陶芸教室での講師や、樫西和紙を用いた「灯り玉」のイベントを開催している。イベントは、観光名所や自然と灯り玉が幻想的な光景を作り出し、累計7回開催するという人気っぷりだ。
細見さんに、真庭市での陶芸活動や真庭市での暮らしについて語っていただいた。
大学で東山文化を学び、真庭市で陶芸の道へ

COCO真庭 吉田:まず、移住前についてお伺いします。真庭市で地域おこし協力隊になった経緯を教えていただけますか?
細見さん:移住前は大学で東山文化を中心に学んでいました。東山文化は室町時代後期に栄え、「わび・さび」を基調とした質素で静かな美意識が特徴です。特に私が興味を持ったのが漆と陶芸。進路を模索するなかで、漆職人か陶芸家になろうと思っていました。
真庭市を知ったきっかけは、郷原漆器(ごうばらしっき)と呼ばれる真庭市の蒜山地方のクリ材を用いた木目が美しい伝統的な漆器です。さらに、真庭市には陶芸の窯元さんもいらっしゃり、漆職人か陶芸家になろうと思っていた私にとってぴったりな場所でした。真庭市で活動されている漆職人さんか陶芸家さんの後継者や弟子になる道も考えましたが、タイミングが合わなかったので、地域おこし協力隊として陶芸に関わる仕事をしようと決めました。
COCO真庭 吉田:地域おこし協力隊になるのに、ハードルはありましたか?
細見さん:昔から人と話すのが苦手で、コミュニケーションの面で不安がありました。大学生時代は、授業中に「誰とも話さない」というルールを決めていて、黙々と陶芸をする感じだったんです(笑)。
ですが、真庭市に移住して、ご近所さんや活動に関わる方々などとお話するようになり、自分の世界に閉じこもりがちな性格が、徐々にほぐれていった気がします。意識して相手の目線や気持ちに合わせるようになってから、コミュニケーションが取れるようになっていきました。
樫西和紙で灯り玉を作り、地域イベントを開催

COCO真庭 吉田:地域おこし協力隊として、どんな活動をしているか教えていただけますか?
細見さん:落合地区と北房地区の陶芸教室で教えています。実は協力隊に着任した当初は陶芸教室で教えるアイディアは無かったのですが、協力隊仲間から色々なイベントに誘われて赴いていくうちに、2つの陶芸教室とつながって講師として携わることになりました。講師業は週2、3回のペースで、参加人数は多い時で10人ほど、40歳以上の方が多い印象です。
やりがいは、教えていくうちに生徒さんの作品がより良くなっていくことです。独学で陶芸をされている方は本来必要な工程を飛ばしている場合があり、器の底が割れてしまったり、歪んでしまったりすることがあります。その原因や対策をお伝えすると、より良い作品が作れるようになり、モチベーションが上がっているのを見ると嬉しいですね。

細見さん:単発のイベントで小学生を対象の陶芸教室も行いました。一人ひとりろくろを回すところからマンツーマンで指導させていただき、後日作った作品をお渡ししました。

COCO真庭 吉田:細見さんが陶芸を通して、地域に貢献されているのが伝わってきます。
細見さん:地域活動で言うと、真庭の特産である樫西和紙を使って、灯り玉(あかりだま)と呼ばれる照明を作って、イベントを開催しています。
きっかけは、知り合いが樫西和紙を用いた名刺を持っていたことです。とても気になる材質だったので樫西和紙の工房を紹介してもらい、見学に行きました。そこで職人さんたちの思いやこだわりをとても感じたのですが、和紙の需要が減っていっているので販売に苦戦している様子でした。それから「和紙を活用して少しでも地域に還元できないか」と考えるようになって。
同時期に別のコミュニティでお花見のイベントを計画していたのですが、その時期は一切花が咲いていなかったので、樫西和紙で作った灯り玉をお花に見立てたらいいのではと思いついたんです。灯り玉を真庭市の自然とコラボさせて、幻想的な光景を創るイベントを開催しました。おかげさまでイベントは地域の方に好評で、毎月開催するようになり、累計7回開催しています。
灯り玉のイベントに伴い、灯り玉を作る教室も開催しました。教室を開催する醍醐味の一つは、地域の方と交流できることです。「この人がこんなこと話すんだ」と意外な一面が見られたり、ここでは話せないような会話が弾んだり。そんな瞬間が一番楽しいなと感じます。
「見てくださる方がいて、初めて伝統工芸が成り立つ」

COCO真庭 吉田:素晴らしいです。他に、地域おこし協力隊で面白さを感じる瞬間はありますか?
細見さん:横のつながりから、どんどん仕事の幅が広がっていくところです。例えばイベントに参加すると、面白い方とつながれたり、新しいプロジェクトが生まれたりします。現在も、他の方に教えていただいた展示会に向けて、作品を製作しているところです。
COCO真庭 吉田:確かに、陶芸教室も灯り玉のイベントも人とのつながりがきっかけでしたよね。地域の方々とコミュニケーションをする上で大切にしていることはありますか?
細見さん:伝統工芸は、見てくださる方がいて初めて成り立ちます。そのため常日頃から一般の方々に伝統工芸の魅力を感じ取っていただけるような配慮をするようにしています。
伝統工芸を見てくださる方は上の世代に多く、お話するのが好きな方も多くいらっしゃるので、さりげない会話を意識したり、心にも身体にも負担が無いようなやさしい言葉を使ったりしています。

COCO真庭 吉田:そんな気持ちが参加者に伝わり、細見さんの教室は人気なのでしょうね。以前はコミュニケーションが苦手だったなんて思えないです…!
細見さん:真庭市に来て、性格がだいぶ変わったと思います。
活動していると上手くいく時もあれば、思うようにいかない時もあります。上手くいかない時に、失敗を認めて次にどう活かすかを考える姿勢が大切だと捉えるようになりました。
私も今まで色々と失敗してきましたが、その度に痛みを伴いながら学んできました。以前の自分だったら失敗を失敗と認めなかったと思いますが、今は受けとめられるようになったので少しは成長したのかなと。
地域おこし協力隊での活動では「謙虚な気持ち」が大切

COCO真庭 吉田:現在のご自宅はどのように見つけられたのですか?
細見さん:現在は落合地区の古民家で一人暮らしをしています。元々、知り合いのご親族が住んでいた家で、協力隊の仲間が紹介してくれました。4LDKほどの広さと倉庫もついており、一人では使いきれないほどです(笑)
COCO真庭 吉田:真庭市での暮らしで大変だと感じる瞬間はどんな時でしょうか。
細見さん:やはり天候ですかね。雪の時期は特に厳しいです。以前、余野地区に住んでいた時に、30cmほど雪が積もって2、3日地区から出られない時がありました。部屋の中にいても、白い息が出るほどです。寒さが苦手な人は、断熱性や暖房環境などが自分に合っているかを事前にチェックしておくといいと思います。
COCO真庭 吉田:お休みの日はどんな風に過ごされているんですか?
細見さん:休みの日は、家でゆっくり過ごすことが多いです。疲れをとったり、作品のアイデアをぼんやり考えたりしながら、のんびりと過ごしています。
もう少しこちらの生活に慣れてきたら、美術館や温泉にも足を伸ばしたいですね。以前アルバイトをしていた湯原温泉街のドラゴン射的場は、今でも大好きな場所です。いつかまた遊びに行って、ヲタク仲間とアニメの話ができたら楽しいだろうなと思っています。
COCO真庭 吉田:地域おこし協力隊としての今後の目標について教えていただけますか。
細見さん:実は真庭市に来てから陶芸教室の仕事とイベント運営で手一杯で、陶芸の作品が作れていない状態なので、まずは自分の作品を作っていきたいです。

細見さん:将来は陶芸家またはアーティストになりたいと思っています。まず賞を取って、自信をつけたいなと。まだまだ道なかばですが、一人前になって真庭市に還元していきたいです。
COCO真庭 吉田:これからどんな作品を作りたいか、イメージはありますか。
細見さん:2つあります。1つは黒を基調とした和モダンテイストの陶器です。和と洋を組み合わせたテイストにしたいなと。
2つ目は松灰釉というきれいな発色の釉薬と黒土を用いた陶器です。黒土は土の深い部分にあり、生物の死骸の成分も入っていることから、生死をテーマにした作品を作っていきたいです。
COCO真庭 吉田:細見さんのこれからが楽しみです。最後に、真庭市への移住を考えている方へメッセージをお願いします。
細見さん:私は新卒で地域おこし協力隊になったので、同じような立場の方の気持ちが少なからずわかります。新卒のカードを捨てて、地域おこし協力隊になるのは覚悟がいることではないでしょうか。
アドバイスできるとしたら、地域おこし協力隊ではハプニングがつきものなので、問題が起こったら「自分が何か悪かったのかもしれない」と一旦振り返るのが大切です。反対に、何か成果が出た時は、自分だけの実力だけではなくで、裏で色々と動いてくださった方々のおかげであることを忘れないようにする。謙虚になりすぎるのもよくありませんが、謙虚な気持ちが心地よい人間関係を育むと思います。
◆細見尚生さん
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取材・執筆:吉田櫻子(X:https://x.com/racco_writer)






