移住は、ライフスタイルを見なおすきっかけ。
暮らしと子育てをどう考えていく?
真庭びと01 木藤千春さん
もともと、真庭出身の木藤千春さん。
進学を機に、真庭から大阪へ。そのまま、美容師になり、美容師を育成する講師となり、結婚、出産、そして子育て。
大阪で暮らしていくなかで、真庭へUターンしようと思ったきっかけは? 都会での子育てと、田舎での子育ての違いって? 移住したことで、働き方はどう変わったのか?
そんなUターンにまつわるあれこれを、赤裸々に教えてもらいました。
甲田:
記念すべき第1回目なので、あえて「ズバリ」から入らせてください(笑)。
ズバリ、移住のきっかけは?
木藤:
きっかけは、2人目の子どもが生まれたときです。
当時、大阪の中心部に住んでいたんですけど、楽しい場所がたくさんあるはずなのに、どこに連れていくのも大変で。
2人とも男の子で、しかも年子ということもあって、とにかくやんちゃ。
電車に乗せるのもひと苦労でした。遊びに行っているのに「すみません」って謝ってばかりで、逆にちょっと苦痛に感じたり。だから、大阪では結局、だれもいない河原ばかり行っていました(笑)。
甲田:
大阪あるあるですね(笑)。
楽しいところが多いけれど、そのぶん、人も多いという。
木藤:
そうです。
あと、ちょうどその頃、3LDKのマンションだったんですけど、手狭に感じていて。
このまま、大阪の中心部に住みつづけるのか、大阪でも郊外に出るのか、それともちょっと違うところへ引っ越してみるのか。
主人の仕事のこと、子育てのこと、いろいろと考えて、あと正直なところ、地震もちょっと怖いな、と思っていたんです。
主人は大阪出身なんですけど、じゃあ、ちょっと違うところを考えてみようか、ということになって。
それなら縁もゆかりもないところに行くよりは、私の生まれた岡山県にしようか、という話になりました。
甲田:
なるほど。
移住を考えて、まずはじめにされたことって何ですか?
木藤:
岡山県に戻ろうか、という話をしたすぐあとに、大阪で「岡山の移住定住フェア」みたいなのがあって、まずそこへ話を聞きに行きました。
そのときに、主人が「農業をやりたい」と言って。もともと、その土地に合った仕事ができたらいいな、という話はしていたんですけど、急に言い出したことだったので、「ええっ」って驚いて(笑)。
農業はその土地に合っているうえに、自分の意思、自分の責任でできるので、そこが良かったみたいです。「研修制度もありますよ」と教えてもらって、また、地域おこし協力隊のこともそのフェアではじめて知りました。
話を聞いて、「私も地域おこし協力隊、やってみたいな」と思ったので、地域おこし協力隊の募集をしているところ、また農業の研修が受けられるところ、この2つをテーマに移住先を探すことにしました。
甲田:
真庭市はすぐに思い当たりましたか?
木藤:
いえ。はじめは、岡山の県南から探していったんです。
私は18歳まで、県北の真庭市に住んでいたので、いいところも知っている分、不便なところも知っていて。だから子どものことも考えたときに、県南のほうがいいかな、って。
でもそのうち、主人のやりたい農業作目が「ブドウ」に決まって。じゃあ、県南よりも県北だねって。県北の勝央町とか久米南町を調べるようになっていきました。
私は「勝央町いいかな」と思っていたんですけど、真庭に住んでいる妹と話していたときに、「勝央町まで戻ってくるんだったら、近いんだし、もういっそのこと真庭に戻ってきたら?」と言われたんです。
たしかに、あまり知らない勝央町よりは、どうせ近いのだから、いろいろ知っていて、知り合いもいる真庭市のほうがいいな、と思うようになりました。
真庭市って、ほかの自治体みたいに「ここがスゴい!」「移住してくれたら、こんなメリットが!」という打ち出し方をしていないんです。
でもね、みんな、人がいいんです。それってなかなか伝わりづらいんですけど、真庭市へ移住されてきた方だけが知っているんです。ここは、人のよさがピカイチだって。
甲田:
わかります(笑)。真庭市って、正直なところ、まだまだ知名度も高くなくて、なかなかその良さが伝わっていないんですよね。
ところで、移住は、スムースでした?
木藤:
そうですね。比較的、スムースに進んだと思います。
ただ、主人の研修先が決まるのと、私が地域おこし協力隊になるのと、タイミングがうまく合うか、どきどきはしましたけど(笑)。
甲田:
移住のときに、ネックになったものはありますか?
木藤:
家ですね。家がいちばん困りました。
移住当時、子どもが4歳と3歳で。とにかくうるさいので、絶対に一軒家がいいなって(笑)。
マンションとか、アパートとか。となり近所に毎日、「うるさくしてすみません」と謝らなくちゃいけないって、もう無理だったので。
一軒家でのびのびできたらいいな、と思っていました。
でも、なかなか見つからなかったです。
紹介してもらった不動産屋さんに見せてもらったり、ほかの不動産屋さんに問い合わせてみたり、ホームページをくまなく探したり。
知り合いにも、「一軒家を貸してくれるところない?」と言ってまわって。最終的に、知り合いの知り合いみたいな方の紹介で、見つけることができました。
合計で、3ヶ月ぐらいかかったと思います。
家が決まらないと、保育園の申し込みもできないし、引っ越しの日も決まらないので、ネックになったのは、やっぱり家ですね。
甲田:
移住に際して、やっぱり「家」はポイントですね。
いきなり一軒家を購入してからの移住って、なかなかのハードルだと思います。大阪と比べて、物件が安いとは言え、大きな買いものには違いないので。
だから、一軒家なら賃貸からはじめるのがオススメなんですけど、「田舎だから、空き家がたくさんあるだろう」と思ったら、意外とそうでもなくて。
条件に合うものって、都会と一緒で、しっかりと探さなきゃ見つからない、という事実はあると思います。
木藤:
真庭市の地域おこし協力隊の場合、まずは住みやすいアパートから移住生活をはじめて、人との縁のなかで、住むところを決めていく、という感じですね。
甲田:
移住後の生活は、イメージしていたものと比べて、いかがでした?
木藤:
これは真庭あるあるなんですけど、「そうだ、この寒さだ」と思い出したことですかね(笑)。引っ越してきたのが、2月だったので。
大阪のときと比べても、家が広くなったので、エアコンひとつでは足りないんです。電気毛布を買ったり、ストーブの灯油が減ったりとか。
ただ、もう子どもたちはびっくりするぐらい、のびのびしています。
家を飛び出して、庭を駆けまわっています(笑)。大阪ではなかなか雪に触って遊ぶことがなかったので、雪の積もった庭で、くたくたになるまで遊びまわって。子どもたちは毎日、ホントに楽しそうです。
木藤家の子どもたちはいつでもどんなときでも遊びを見つけだしてのびのび。
木藤:
主人はまだ研修中ですけど、それでも自分の好きな仕事ができている、っていう充実感があるみたいで。好きな仕事じゃないと続かないですよね。
お金をすごく稼ごうと思って移住してきたわけではないので(笑)、自分らしく生きられる場所を選んだ気がします。
甲田:
移住を考えるって、ホントに、「ライフスタイルの見なおし」みたいなところがありますよね。
木藤:
まさに、ライフスタイルを見なおしました。
大阪で味わった待機児童の問題もなかったです。
まだ家が決まっていないときに、「このあたりにある園に入りたいんです」と市役所に問い合わせたら、市役所の方がすごく丁寧に対応してくださって。
そうです、市役所の対応がすごく丁寧なんです。部署が違う相談でも、「ここにいてください。担当を呼んできますから」って言ってくれて。
甲田:
たしかに。ひとりひとり、丁寧に対応してもらえますよね。
木藤:
大阪では部署ごとにぐるぐる歩きまわらなくちゃいけないんですけど、真庭ではそんなことがありません。
園長先生も「対応させていただきますよ」って言ってくれて。市役所での手続きも、保育園への転入も、スムースでした。
甲田:
地域の人たちとのお付き合いはいかがですか?
木藤:
いま住んでいるところは、生まれ育ったところではないんですけど、それでも親戚をたどれば、私のことを知ってくれている人がいてて。
それって、Uターンのメリットだと思います。
だから反対に、まったく知り合いのいないなか、移住されてきた人のチカラになれたらいいな、ってすごく思います。
仕事が、地域おこし協力隊なので、地域になじむためにも、いち住民としても、自治会に入ったほうがいいな、と思い、入っています。
お祭りとか参加しようと思ったら、やっぱり自治会に入っていたほうが気兼ねなく参加できるようなので。
そんな自治会の方に「いつもうるさくしてすみません」って言うと、「いやいや、子どもの声が聞こえるっていいねえ」って言ってくれるんです。
大阪ではなかなか言われませんよね。おかげで、気が楽になりました。
甲田:
大阪では、なかなか人口減とか現実味がなかったりするけれど、真庭の人たちはみんな、良い意味で人口減を感じている。だから、「子どもは宝」ということを知っていますよね。
木藤:
そうです。しかも、いま住んでいるところは、立地もいいんです。
田舎暮らし、というよりは、町暮らし、という印象で。マーケットも病院も、郵便局、銀行、子ども園も近いんです。徒歩10分圏内ぐらいに集まっていて、便利がいいです。
でも、そこに温かみがあって。
たとえば、回覧板がまわってくるんですけど、インターホンは使わず、ガラガラって家の戸を開けて入ってきたり(笑)。
甲田:
それも真庭あるあるですよね(笑)。家の鍵をしていたら、「どうして、鍵なんか掛けてるん?」って言われたり。
ちなみに、移住前と移住後、もっとも変わったところは何ですか?
木藤:
いちばんは、まず働き方が変わりました。
楽しく仕事ができている、やりたいことができている、という変化が大きいです。
大阪にいたときは、「子どもを育てるため」というだけで働いて、働く場所も時間も、子どもに合わせて、働ける場所で働く、という感じでした。
都会って一見、選択肢がたくさんあるように見えるんですけど、じつは「働きたい内容」ばかりがあるわけではないんです。
仕事の選び方は、「子どもを保育園に預けられる仕事」しかなくて、自分がやりたいことになかなかチャレンジできない。でも、真庭では、どちらも叶えられていると思います。
しかも、家族の時間が増えました。
もちろん、忙しいことは忙しいんですけど、それは大阪のときも同じで(笑)。主人も融通が利くようになったので、夫婦でバランスを取りながら、子どもを見ています。
甲田:
スローライフというわけでは決してないけれど、自分たちのペースで暮らしをつくっている、という。
木藤:
田舎暮らしでイメージされるような、スローライフではないです(笑)。
甲田:
ちなみに、木藤さんの地域おこし協力隊としての仕事内容って?
木藤:
いろいろ携わっているんですが、たとえば廃校の利活用と地域支援を兼ねた、「山ノウエノ美容室」をしています。
廃校の一室を、地域の人たちと一緒に美容室に改装。
「髪を切りに行きたいけれど、山のうえだから移動が大変で」という地域の年配の方に向けて、送迎サービスつきの美容室を運営しています。
表情が明るくなって、喜んでもらえるのが、とてもうれしいです。
※山ノウエノ美容室が属している施設「UEDA VILLAGE」のホームページ
甲田:
ちょっと立ち入るんですが、経済的な変化は、いかがでしたか?
木藤:
立ち入りますねえ。
下がりましたよ(笑)。
ただ、やっぱりお金を稼ぐために移住したわけではないので(笑)。
出費もイメージしていたよりは、ありますね。
たとえば、クルマが必須ですので、それにかかるガソリン代とか保険代とか。あと、大阪のときと比べると、感覚的ですが、ガス代とか電気代も高めだと思います。
ただ、そういう想定外の出費があるだろうな、とは予想していました。
主人の収入が下がることもわかっていたので、それを見越しての貯金だったりとか、家計のやりくりを、少しですが、していました。
甲田:
経済的なことよりも、なにより子どもたちが。
木藤:
はい。もう、子どもがね、とくに下の子が生きものが大好きで、昆虫とかそういうのがいっぱいいるので、いきいきしています(笑)。
主人が子どもたちをこども園に迎えに行って、そのまま川へ魚釣りに行ったりとか。あとは庭に蛇が出るので、それを捕まえたりとか。もちろんアオダイショウですよ(笑)。
大阪にいたときは、保育園にも「土の園庭」がなかったので。
あと、こっちのこども園は、お兄ちゃんとかお姉ちゃんとか、年齢の違う子とも交流が多くて、いろんな刺激をもらっているみたいです。
甲田:
子どもの数が多くないぶん、園内でも年齢の違う子との交流が多い。そういう区切りが良い感じに、あいまいなんですよね。
2歳になる僕のムスメもよく、「お兄ちゃんと遊んだ」とか「お姉ちゃんと遊んだ」と言っています。何をして遊んだのかは、まだ教えてくれませんが(笑)。
木藤:
都会での子育てって、狭かったり危なかったり、人が多かったりで、子どもに付きっきりにならないといけない。
でも、田舎なら良い意味で、自分の目の届く範囲で遊んでくれるんです。だから、そこまで付きっきりにならなくてもいい。
子どもにとってもストレスが少ないと思います。
家の敷地内で、虫を探したり採ったり、自由に走りまわって。家事をしながら、その様子が見守れるっていうのは、やっぱり都会では難しいと思います。
甲田:
じゃあ、子どもたちについては、引っ越しのハードルはそこまで高くなかった?
木藤:
そうです。子どもたちが、引っ越しとかよくわかっていないうちに移住したので、移住に対する抵抗はなかったですね。
ただ、移住するときには、やっぱり子どもの年齢のことを考えました。
田舎って基本的には、こども園に入ったら、そのまま小学校も持ち上がりになるので、なるべくなら、こども園で友だちと一緒に過ごす時間が、1年でも2年でもあったほうがいいなって。
木藤:
いまは毎日「楽しい、楽しい」って言っています。
真庭って、地域のイベントもたくさんあって。大阪では体験できないような、どちらかというと、暮らしに密着したようなイベント。たとえば、とんどとか。
温泉街も近くて、広い公園もあって。たとえば、夜の昆虫観察会に行った帰りに、無料で入れる露天風呂「砂湯」に寄ったりとか、とてもいいんです。
なにより自然が広がっていて。遊び方が限られていない、というか、自分たちで遊びをつくっていけるんです。
子どもの「生きるチカラ」というか、スペックが高くなると思います。
甲田:
大阪で生まれ育った僕なんかよりも、よっぽどたくましく育っていく(笑)。
木藤:
結局のところ、子育てって、親の気持ちなんです。
子どもが成長して「なにか、やりたい」と言ってきたときに、「遠いからだめ」とか「田舎だからだめ」とか、親が田舎を理由にしてしまったら、なにもできません。
そうではなくて、「精いっぱい子どものサポートをしてあげよう」という気持ち。
移住を考えるって、子育てとか、仕事とか、そういうものについて、改めて向き合うきっかけになると思います。
移住は、一大決心です。
だからこそ、地域に足を運んで、人と空気を感じて。いろんなところを見ていくと、きっと「あ、ここだ」と感じるところへたどりつけると思います。
私もそうでしたから。
甲田:
ありがとうございます。
木藤:
ありがとうございました。
お話を、ありがとうございました。木藤さんはまっすぐで、明るくて、笑いの絶えない時間でした。Uターンにまつわるいろんなお話も、飾ることなく、等身大。
「子育てって、親の気持ち次第」
「なかなか伝わりづらいけれど、真庭市へ移住されてきた方だけが知っている、真庭の人のよさ」
聞きながら、いつのまにか大きくうなずいている自分がいました。
移住されてきた方にもっと寄り添ってあげたい、という木藤さん。その笑顔がとても素敵でした。
聞き手:甲田智之
写真:石原佑美