樫邑(かしむら)の「三椏(みつまた)クラウドファンディング」は、なぜこんなにも温かいのか。


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5/16(木)日本経済新聞に、ある記事が載った。

――新札にらみ「ミツマタ」増産。

三椏(ミツマタ)とは、一万円札の原料となる植物。
2024年度に予定されている新札発行に向けて、紙幣原料である「三椏」の生産を増やすための動きが加速している、という記事だった。

じつは、そんな三椏の生産量日本一を誇っていた地域が、岡山県真庭市にある。
今回の主役、「樫邑(かしむら)地域」である。
かつては、「一万円札の里」と呼ばれるぐらいの生産量だったが、残念ながら高齢化・少子化などの影響、さらには海外産の三椏に押され、衰退の一途をたどっていた。

このままでは、樫邑が樫邑でなくなってしまう。
いま、この瞬間に、自分たちが立ち上がらなければ。

そんな強い想いをもって、「樫邑地域産学共同プロジェクト きらきら計画実行委員会」は今回、クラウドファンディングを立ち上げた。

というが、それだけではなかった。

なんていうか、樫邑の「三椏クラウドファンディング」は、とても温かいのだ。
ちょっとでも、「きらきら計画実行委員会」の人たちと関わらせてもらうと、ふるさとに帰ってきたような「温かみ」を感じる。
温かみを感じるなんて、クラウドファンディングに関して、はじめてだった。

「樫邑のために」と支援をつのる、この活動が「なぜ、こんなにも温かいのか」。関わる人たちに「温かみ」を与えることができるのか。
そんな命題をこっそりと隠しもって、「樫邑地域産学共同プロジェクト きらきら計画実行委員会」の若者、寒川英(さむかわ たけし)さんにお話をうかがった。


甲田:
寒川さんは、「かしむらの孫」と聞いています。

寒川:
(笑)いやいやいや。恐縮です。
ぼくはいわゆる移住者で、樫邑に惚れて、ここに移り住みました。
それから、ずっと樫邑の地域活動にも携わってきていて。
児童数の減っている、「樫邑小学校」を存続させていくための活動だったり、子どもも大人も一緒になって、自由に里山で遊べる「かしむら遊び隊」を企画・運営したり。

甲田:
そういえば、みんなで焼いもをつくったり、竹馬大会もしていましたよね。

寒川:
楽しかったです(笑)。
自然のなかで、背のびをしない遊び方が、樫邑ではできるので。
ちょっとまえですけど、ただただ、たき火をする会、というのもありました(笑)。

甲田:
(笑)、いろんな動きがあって、おもしろいですね

寒川:
ありがとうございます。
そんな樫邑が、もっとひとつになる。その主役が、「三椏」だと思っています。

甲田:
樫邑にとって、「三椏」はどういう存在ですか?

寒川:
樫邑地域でも「こが」と呼ばれる、三椏を蒸す機械が残っています。かつては紙幣原料の三椏生産量日本一を誇り、「一万円札の里」と呼ばれていました。
それぐらい、三椏って、樫邑地域に根づいているものなんですが、時代のあおりもあって、いまは加工施設が1軒しかなくなっている、というのが現実です。

ただ、樫邑小学校では、「三椏」を取り入れた授業がおこなわれたりもしています。
三椏の皮をむいたり、和紙を漉いたり。
それも、3年かけて紙すきを練習するんです。そして、自分が卒業するときの証書を、その和紙でひとりひとりつくっています。

甲田:
三椏から、和紙を?

寒川:
はい。樫邑のなかの「樫西(かしにし)」というところには、いまもつづいている樫西和紙の工房があって。紙すきの体験もできます。
また、最近では、三椏を原料とした「結の香」という化粧品が生まれています。

樫西和紙工房のホームページ
結の香のホームページ

甲田:
今回のクラウドファンディングの返礼品になっているものですね。

寒川:
そうです。

寒川:
そうして、「三椏」を活用した、いろんな特産品が出てきたことで、少しずつですが、「もう一度、三椏の郷を取り戻そう」という動きが、樫邑ぜんたいに広がっています。

甲田:
三椏があるから、樫邑がひとつになっている。

寒川:
樫邑にとって、大切な文化なので。ご年配の人たちから子どもまで、「三椏」を通じて、世代間の交流を深めているんです。
だから、そんな「三椏」を絶やしたくない。三椏がこのまま衰退して、地域がばらばらになってしまうなんて寂しいですよ。

あまりにも地域に根づいていて、近い存在だから、なかなかふだんは気づけないんですけど、三椏はやっぱり、樫邑にとって大切な誇りのひとつなんです。

甲田:
樫邑の人たち全員をつなぐ、クラウドファンディングなんですね。
ところで、そのチラシがいま、手もとにあるんですけど、ここに映っているのは皆さん、樫邑の人たちですか?

寒川:
樫邑の人たちや、樫邑のことを想ってくれている人たちです。
本当は、もっとたくさんの人たちがいて。みんなをのせたかったんですけど、枠がぜんぜん足りなくて(苦笑)。

このチラシは、樫邑の人たちの温かみというか、「素朴で、飾らない。人間味のある樫邑」をそのままお伝えしたい、というデザインになっています。

甲田:
本当に、人間味にあふれたチラシだと思います。

寒川:
樫邑って、本当に温かい人が多いんです。
引っ越しのときからも、いまも、いろいろお世話をしてくれて。

甲田:
わかります。ぼくも、樫邑の人たちによくしてもらった思い出が。
ちなみに、今回のクラウドファンディングで集めたお金は、どのようなことに使われるのでしょうか?

寒川:
どれも、三椏の再興、ひいては樫邑地域ぜんたいの「これから」に関わることに使わせていただきます。
三椏の植栽・管理費用。体験学習や、イベントなどの開催費用。
三椏事業に関する広告や、宣伝費です。
あとは、今回のクラウドファンディングにかかる費用です。

返礼品について、じつは内緒にしていることがあって。

甲田:
内緒? いいんですか、話して。

寒川:
たぶん(笑)。
じつは、ご依頼の返礼品とはべつに、三椏の種も一緒にお送りしようか、と思っているんです。お庭やベランダに植えてもらって。
そうすれば、「三椏」を通して、子どもからご年配までつながっている樫邑の雰囲気、というか、つながっているという実感、というか。そういうものを感じてもらえるかな、と。
カンタンに言うと、皆さんとつながれたらな、と思って(笑)。

甲田:
いいですね。きれいですもんね、三椏って。

寒川:
はい。花材としても、人気なんです。
名前のとおり、3つに分かれている、肌色の美しい木枝の部分もそうですし、黄色っぽいふわふわしたお花もかわいくて。

甲田:
「これが、一万円札になるのかあ」という感慨深さもありますよね。

寒川:
(笑)そうですね。
三椏には、地域資源という一面もしかり、文化という一面もしかり。さらには、樫邑地域ぜんたいをひとつにする、「心のよりどころ」のような役割も果たしています。

三椏は本当に、子どもからご年配まで、樫邑の「すべての世代をつないでくれる」んです。

だからこそ、今回のクラウドファンディングを成立させて、樫邑をもっと元気にしたい、と思っています。

ご支援を、ぜひともよろしくお願いいたします。

「日本一の三椏(みつまた)の郷を再興したい!」クラウドファンディング プロジェクトページ

甲田:
ありがとうございます。

寒川:
ありがとうございました。


取材後、寒川さんがぽつりと言った言葉。

「樫邑が、大好きなんです。樫邑の人たちのことも」
その言葉に、すべてが集約されているような気がした。

樫邑(かしむら)の「三椏(みつまた)クラウドファンディング」は、なぜこんなにも温かいのか。

岡山県北にある、おだやかな里山「樫邑」。
そこに暮らす人たちの「想い」がそのまま、クラウドファンディングにあらわれている。
新しいものをつくっていくわけではない。むしろ、これまであったもの「三椏」に、もう一度、光をあてたい。

飾らない、等身大。だからこそ、温かい。
そんな樫邑の挑戦が、はじまっている。

聞き手:甲田智之