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林業は木だけでなく、人々の暮らしや生態系も守る仕事。家族とともに真庭市へ。【真庭市地域おこし協力隊 小林建太】

地域おこし協力隊インタビュー001

2025年12月15日 by COCO真庭

「林業はただ木を切るだけではなく、自然や人間の生活を総合的にデザインする仕事」。

そう語るのは、真庭市の北房地区で、地域おこし協力隊として林業に取り組む小林建太さん。

以前は空調会社の設計士として働いていたが、コロナ禍をきっかけに生き方を模索。「林業で本当の意味の生きる力が養えるのでは」と思い立ち、林業の世界に足を踏み入れた。

現在は妻と子ども3人と北房地区に住み、地域おこし協力隊として林業に取り組んでいる。目指すのは、地域の生態系や人々の生活を守り、里山を再生させることだ。

小林さんに、北房地区ならではの林業の面白さ真庭市での生活について語っていただいた。

※約3年前にも小林さんにインタビューしましたのでぜひご覧ください。
◆リンク「いつか絶対、林業が花形になる日が来る。林業のイメージがガラリと変わる、真庭びとの物語。

コロナ禍で生き方を模索。林業の世界へ。

小林さんが林業を手がける山。取材当時、エリアの伐採は全体の8割が完了していた。

COCO真庭 吉田:まず、小林さんの移住前についてお伺いします。真庭市で地域おこし協力隊になるきっかけを教えていただけますか?

小林さん:移住前は妻と子ども3人で、大阪でいわゆる都会的な暮らしをしていました。私は空調会社の設計士、妻は鉄道会社の人事の部署で働いていました。

移住を考えるようになった大きなきっかけは、コロナ禍です。空調会社に勤めていたのでコロナ禍で仕事量が激増し、妻も激務になり、二人そろって家庭のことまで手が回らなくなってしまったんです。

そんな経験から、組織の中で働くことに限界を感じるようになったと言いますか。自分の意思で働けないことで、精神的に追い込まれていたんですよね。転職も考えましたが、それよりももっと大きな変化を求めるようになっていました。

そんな時に趣味のキャンプで焚き火を眺めながら、「木を扱う仕事だったら、本当の意味で生きる力が身につけられそうだ」と直感的に思って。当時から「半農半X(農業を営みながら、残りの時間で自分の好きなことややりがいのある仕事をするライフスタイル)」が気になっていて、林業でもできるんじゃないかと。それで大阪の本町にある「ふるさと回帰支援センター・大阪」を訪れ、真庭市の林業に興味を持つようになりました。

取材は焚き火を囲んで。生き方を模索していた会社員時代、焚き火を見て林業に目覚めた。

COCO真庭 吉田:素人がいきなり林業の世界に飛び込むのは難しそうですが、小林さんはどのような流れで林業に携わるようになったのですか?

小林:大阪に住んでいる頃から真庭なりわい塾という農山村をフィールドに新たなライフスタイルを模索する人材育成塾に通っていました。それがきっかけで真庭市の北房地区で森林組合の作業員として携わり、「岐阜県立森林文化アカデミー」でも学びました。

その後、真庭市北房地区へ移住し、個人事業主を経て同年10月から地域おこし協力隊に着任したという流れです。

林業について話すと止まらなくなる小林さん

COCO真庭 吉田:林業や田舎暮らしをしたいとご家族に話された時、どんな反応でしたか?

小林さん:妻に最初に話した時は「何を言っているんだ」というリアクションでした(笑)。そこで妻や子どもたちを真庭市に何度も連れて行って地元の暮らしを見てもらい、理解を得るようになりました。

実家の家族も最初は同じような反応で「子ども3人もいて、どうやって生活していくの」と心配されましたね。幸い妻が会社員なので、私にだけ経済的に依存していないことを伝えて、納得してもらいました。

移住のタイミングも良かったと思います。一番上の子どもが小学生になる直前だったんです。子どもたちは移住がよくわかっていない状態だったので、スムーズにいきました。もし中学生や高校生だったら、「友人と離れたくない」と言われたり、進学先に影響したりするので、ハードルが上がったと思います。

森全体で秘密基地を作っている気持ち

重機で森を切り開いて作った広場

COCO真庭 吉田:地域おこし協力隊として、どんな活動をしているか教えていただけますか?

小林さん:主に林業を通して森林を整備しています。山主さんと契約して、里山で重機やチェーンソーで木を切り、木材市場で売るまでを一貫して行っています。まだ植林はできていませんが、ゆくゆくは手がけたいなと。林業の川上から川下まですべて自分で行うのが私の林業の特徴です。

もう一つ特徴を挙げるとすると、井尾川流域での人々の暮らしや生態系を守り、里山を再生するというビジョンを掲げていることです。林業はただ木を切る仕事ではなく、自然や人間の生活などを総合的にデザインすることだと捉えています。例えば、人々が美味しい水を飲めるのは山が雨水をろ過してくれているおかげです。美味しい水を飲むためには森林が正常に機能している必要があります。そういった自然のサイクルが正常に機能するようにデザインして、整えるのが私の仕事です。

私は前職で空調設備の設計士をしていて、もの作りはとても尊いことだと思っています。設計の対象が機械から森林になりました。ダイナミックな森林をデザインしていると思うと今でもワクワクして、森全体で秘密基地を作っているような気持ちになります。

年輪を見れば、木の成長スピードがわかるそう

COCO真庭 吉田:現在林業を行っている土地には、どのように出会ったのですか?

小林さん:林業の活動をしていくなかで山主さんをご紹介いただき、「山の手入れが行き届いていないから、管理してくれたら嬉しい」とご依頼につながりました。

私としても、この周辺の裏山は里山づくりとしてのポテンシャルが高く、面白い森づくりができそうだと思っていました。というのも、この山はそこまで傾斜が険しくないので道を作りやすく、以前手入れをされていたため整備しやすいからです。

COCO真庭 吉田:林業では主にスギやヒノキなどの針葉樹林を扱うことが多いですが、小林さんは広葉樹林も手がけたいそうですね。

小林さん:そうですね。現在はまだ針葉樹林だけを扱っているのですが、ゆくゆくは広葉樹林も手がけていきたいです。

というのも、この地域の7割は広葉樹林なので、地域の特産品として収益化できる可能性があるからです。まっすぐ伸びる針葉樹林は木材として扱いやすい一方で、広葉樹林は曲がって育ちやすいのですが、薪や炭、家具の材料としてのポテンシャルが高く、時に高値が付くこともあります。

また、広葉樹林は現在、日本全体でナラ枯れと呼ばれる伝染病が流行っています。森林の整備をすることで、ナラ枯れを食い止めたいなと。

「間伐した後、木が喜んでいる気がする」

間伐した後の森には、十分な日光が降り注ぐ

COCO真庭 吉田:林業の面白さややりがいは、どんな時に感じますか?

小林さん:感覚的ですが、整備した後の森を見ると、木が喜んでいるような気がします。間伐前はぎゅうぎゅう詰めの状態ですが、間引いてあげると、日が当たっていなかった木に日光が当たるようになります。人で表現すると、満員電車から少し人が降りて空間が空き、ホッとするみたいなイメージです。

間伐すると地面に日が当たって草が生えやすくなり、土がふかふかになって土砂崩れが起きづらくなります。集落に住む人々の暮らしを守ることにもつながるわけです。

COCO真庭 吉田:林業は木を切って売るだけの仕事でなく、人々の生活を守る仕事であることが伝わってきます。公共性の高いお仕事ですが、地域の方々から反応をいただくことはありますか?

小林さん:ありがたいことに、私が林業を営んでいると聞いて、山のご相談をいただく機会が増えています。頼っていただけるのは、信頼されていることでもあると思うので、素直に嬉しいです。

まだ集落の中にも私の林業について知らない方々もいらっしゃると思うので、さらにコミュニケーションや交流を増やして、地域で認めていただける存在になっていきたいです。

里山里海の学習ツアーが始動

学生や北房観光協会と作ったウッドデッキ

COCO真庭 吉田:小林さんは、林業にまつわるツアーもしているそうで。

小林さん:里山の暮らしを楽しく体験してもらいながら、学びもあるツアーを過去に開催してきました。例えば、私の真庭市への移住のきっかけの一つとなった「真庭なりわい塾」とコラボして、親子向けに木を切り倒す体験や木工づくり、流しそうめんなど、都会では体験できないようなイベントです。

現在は、一般社団法人北房観光協会と協力しながら、環境省の委託事業の「OKAYAMA SATOYAMA-SATOUMI UNIVERSITYプロジェクトにも力を入れています。岡山県の里山・里海である真庭市・備前市・笠岡市が連携して、学びながら楽しく体験できるコミュニティを作っている最中です。私は学習ツアーの林業体験を担当していて、今度のモニターツアーでは、牡蠣いかだ(牡蠣の養殖に用いるいかだ)用の丸太を切り出す体験を用意しています。ツアー参加者には、次の日に里海でカヤックに乗りながら、牡蠣いかだを見学する体験もしてもらいます。

牡蠣いかだのために切り出された丸太

小林さん:ツアーでも、林業は国土を守る尊い仕事であることが伝わったらいいなと。また、地域の関係人口(地域と継続的に多様な形で関わる人々のこと)を増やしていきたいです。

10軒以上の内見の末に見つけた、築150年の我が家

自宅の庭から見える里山の風景が小林さんのお気に入り

COCO真庭 吉田:真庭市での生活についてお聞きします。移住者で家を探すのに、苦労される方いらっしゃいますが、現在のご自宅はどのように見つけられたのですか?

小林さん:一緒に里山の活動をしている方から紹介いただきました。それまで10軒以上の家を見て回った末に、決めた家です。築150年以上の古民家ですが、一切リノベーションせずに生活できています。

私はずっと縁側がある家に憧れていて、この家が理想を叶えてくれました。庭もあって、子どもたちとしょっちゅう庭でご飯を食べています。庭から見える山と田んぼの景色もとても綺麗でお気に入りです。

COCO真庭 吉田:画になるような日常ですね。お休みの日はどのように過ごしていますか?

小林さん:やはり、家族と過ごすことが多いです。子どもと畑を耕したり、森の中で遊んだり、イベントに参加したり。

北房地区は子育てのサポートが手厚く、北房振興局内にある子育て支援拠点施設の「ほくぼうほたるっこ」をはじめ、子どもが遊べる施設やイベントが多くあります。そういったところに足を運ぶと、親同士で会話が始まり、地域での関係性が自然とできあがっている気がします。

森林経営計画を策定し、理想の里山づくりを目指す

小林さんの理想とする里山づくりは始まったばかり

COCO真庭 吉田:地域おこし協力隊としての今後の目標について教えていただけますか。

小林さん:少し専門的になりますが、森林経営計画を策定していきたいです。森林経営計画は国の林野庁が管轄する、森の伐採や造林、保護などに関する具体的な計画のことで、認定を受けると税制や補助金などの優遇措置を受けられます。

森林経営計画の策定は外部に委託できるのですが、私の場合、自ら森林のデザインをしていきたい気持ちが強いため自分で策定する予定です。なかなか骨の折れる作業なのですが、そうすることで「OKAYAMA SATOYAMA-SATOUMI UNIVERSITYプロジェクト」にも絡められますし、ゆくゆくは環境省の自然共生サイトに掲載されるような里山を作るという目標にも近づけると思っています。

COCO真庭 吉田:最後に、真庭市への移住を考えている方へメッセージをお願いします。

小林さん:林業はとても面白く、社会貢献性の高い仕事です。私と一緒に林業をしてくれる方がいたら、ぜひ遊びに来てください!

 

◆小林建太さん
ブログ: こばけんの田舎開拓史

X: https://twitter.com/5884kenta

 

取材・執筆・写真撮影:吉田櫻子(X:https://x.com/racco_writer

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