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映像・大判焼き・モデル。多業のベースには、「ストリートカルチャー」が流れている。

真庭びと020 山田 和俊さん

2023年03月13日 by 甲田智之

真庭から一度も、都市部へ出ることなく、
映像・大判焼き・モデル、を仕事にしている人がいるという。

そんな人がいるなんて!
はじめて聞いたとき、耳を疑った。

山田 和俊(やまだ かずとし)さん。

3つの肩書きを並べるだけで、とても魅力的。
どうして、その仕事に至ったのだろう。興味が尽きない。

さっそく連絡を取り、話を聞いていくなかで、
山田さんの思いがけない過去と、真庭の先輩との関係が明らかに……。

そして、山田さんに流れる
これからの真庭を盛り上げる「ストリートカルチャー」のお話を聞くことができた。


「こいつ、動画つくってるんで、よろしくお願いします」って紹介してくれて

甲田:
山田さんといえば、「動画のひと」というイメージが。

山田:
動画の撮影、編集。あと最近は、写真撮影もしています。でも動画を始めたのって、じつは2020年ぐらい(取材時2022年)からで、最近なんですよね。独学で(笑)。

甲田:
独学なんですか!

山田:
YouTubeを観たりして学びました。いまも学びながらですけど。高校を卒業してから職を転々としてきてて、動画に携わってたわけじゃないんです。自動車の部品工場をいくつかと、鉄工所、木工所とか。だいたい市内の工場系に勤めていました。

甲田:
では、動画を仕事にするようになったきっかけって?

山田:
鬱ですかね。2020年よりちょっと前だと思うんですけど、仕事が大変だったのとプライベートでもいろいろあって、まあ離婚なんですけど(苦笑)。
それで身体がぜんぜん動かなくなって。少しずつ良くなってきたときに、スマホでリール動画(Instagramに投稿できる短い動画)をつくって投稿したらバズって、「え、なに。この反応!」って動画の面白さに気づきました。

甲田:
どんな動画を投稿してたんですか?

山田:
ずっとファッションが好きで、それをInstagramにアップしてて。動画もファッションに絡めたやつですね。

甲田:
観たいです! ……って。動画を始めたの、鬱がきっかけだったんですね。

山田:
ですね。家族みんな出ていっちゃって、ひとりになって。そのときはずっと家にいました。ちょっと良くなって動画をつくって、また気持ちが落ちて、をくり返していたと思います。でもそんなときに、0867の利充(としみつ)さんが助けてくれて。

※0867… 杉原利充さんが手がける、真庭の市外局番「0867」をコンセプトに掲げたオリジナルブランド。若者を巻き込んだカルチャーの発信も積極的に行なっている。Instagram(@0867.jp

甲田:
利充さんとは前々から面識が?

山田:
先輩です。一時期、バンドも一緒にしたりしてて。
僕の状態も知ってくれていて、「外に出たほうがいい」って無理やり外へ連れだしてくれました。取引先さんとか、打ち合わせの場とか。そこで利充さんが「こいつ、動画つくってるんで、よろしくお願いします」って紹介してくれて。

甲田:
最高じゃないですか、利充さん!

山田:
そのなかで、いまの仕事に繋がるいろんな人たちと出会わせてもらいました。ビックリしたんですよ、そのときに。真庭のなかで起こっていることとか、真庭にはこういう人たちもいるんだよって、地域おこし協力隊の存在とか教えてもらって。
「こういう働き方があるんだ」って。起業するとか、だってそれまで僕、工場にしかいなくて、そういうもんだと思っているから。学校で習わないじゃないですか。「あ、映像が仕事になるかも」と思えたのは、ほんとにカルチャーショックでした。

まわりにクリエイティブな人たちが多い真庭の魅力

山田:
ちょうど同じぐらい、実家のある美甘(みかも。真庭市北西部にある)に住む父親が、退職してからの第2の人生として「大判焼き屋」をはじめたんです。

甲田:
大判焼き屋「山ちゃん」ですね。

山田:
たぶん父親も僕のことを心配してくれてたんだと思います。「家おっても仕方ないから、手伝えや」って。手伝ってみたら面白くて(笑)。
体調のこともあって、僕はもう職場復帰できなかったので、大判焼き屋を仕事にするか、映像を仕事にするか。けっこう悩んでいました。結果的には、映像をメインにしながら、イベントのときとかは大判焼き屋も手伝うという……。

甲田:
どちらも切らない。複業ですね。

山田:
それでいえば、さっきのInstagramにアップしているファッションのアカウントでは、東京のアパレルブランドさんから公式に提供いただいてて。仕事というより、ギフティング(現物の提供)が多いんですけど(笑)。

甲田:
モデルじゃないですか! ちなみに、映像の仕事はどうやって?

山田:
依頼がなかったので、自分からですね。面識のあるなしに関わらず、「撮らせてください」ってほとんど飛び込みみたいな感じで。飲食店とか入って「PR動画撮らせてもらっていいですか」と言っていました。

甲田:
圧倒的な量は、質に転化しますよね。そのときのお金は?

山田:
お金はいただかなかったです。単純に楽しかったこともあって、まずはどんどん0867のイベントも撮らせてもらったりとか。自分のスキル磨きや実績づくりも兼ねていたので。
あとはファッションのアカウントとはべつに、Instagramに動画のアカウントもつくりました。WEBはまだ持てなかったんですけど、ポートフォリオとして動画も投稿できて、無料のInstagramがいいなって。最初のクライアントさんはそのInstagramからでした。

甲田:
意外と皆さん、見られてますよね。
動画の撮影、編集とはべつに、クライアントさんとの仕事の進め方とか値決めとか、そういうものも必要になると思うんですが、その点はどのようにされました?

山田:
地域おこし協力隊(2022年時)で、映像をされている池田将さんに教わりました。
はじめは「サイクリング行こう」って誘われて(笑)。それから河原でもう何時間も煙草吸いながら、石を投げたりしながら、お互いのことを語り合って仲良くなりました。

甲田:
なんだか青春映画のような(笑)。

山田:
まさに(笑)。
クライアントさんとの信頼関係のつくり方とか、そこまで持っていく話し方。日程を抑えて、撮影スケジュールを組んで。それから、はじめて撮影があって編集があって。値決めについても「安売りしないほうがいいよ」って、項目の相場も教えてもらって。
将さんはじめ、ほんとにまわりにクリエイティブな人たちが多いっていうのは、真庭のスゴさだと思います。

甲田:
映像も、デザインも、イラストとか、パフォーミングも。そのほか、いろんなジャンルのクリエイティブな人たちがいるんですよね。

山田:
そういう人たちのなかで、「大丈夫かな? やっていけるかな」と思うこともありますけど(笑)。

タトゥーは、まだそんなに出さないほうがいいかな。

甲田:
でも、スゴく積極的ですよね。

山田:
自分を表現したい、が根っこにあるんだと思います。

山田:
僕の人生、ほとんどバンドなんですよ。中学のときからカバーバンドはじめて、高校のときには友だちと、親の目の行き届かないルームシェアをしてて、それをいいことにずっと津山のライブハウスに入り浸っていました(笑)。津山にしかライブハウスがなくて。

甲田:
バンドマンだったんですね!
地方ではライブハウスの少なさが逆に、ライブの衝撃を強めている印象があります。爆音とか、淀んだ空気とか、匂いとか。ちなみに、どんな曲を?

山田:
パンクですね。HIPHOPも聴いていましたけど、もっと刺激が欲しくて。CASUALTIES、RIPCORD、HERESY、NAPALM DEATH、MANIAC HIGH SENCE、THE SHRINE、WHO AM Iとか。ほかにもたくさんあるんですけど。

甲田:
(あ、ごめんなさい。わからなかった)

山田:
0867の利充さんともそのときに出会ったんです。もう20年以上、長い付き合いですね(笑)。当時、利充さんたちはカリスマ的なバンドだったんです。

山田:
社会人になってからもバンドは続けてて。結婚していたときはやめてたんですけど、生活が落ち着いてきたら、自分がメインのバンドっていうのもやりたくなってきて。家庭を顧みないクソやろうですよね(笑)。それで一度、仕事も変わってるんです。

甲田:
ええっ!

山田:
スリーピースバンドだったんですけど、バンドメンバーのひとりがシルクスクリーンの工房をしてて、そこで僕ともうひとりも雇ってもらって。融通がきくから、ワゴンひとつで全国いろいろまわりました。今日は岐阜で、週末は大阪、来週は東京とか(笑)。

甲田:
そこまで音楽に駆り立てたものは?

山田:
目立ちたがり屋というのもあるんですけど、それはもう「あんなんやりたい!」っていう衝動です(笑)。テレビとかライブハウスで、ステージに立つカッコいい人たちを観て、そのカッコ良さに憧れて、衝動的に「あれがやりたい!」って。

甲田:
地方での障壁みたいなものは感じられました?

山田:
どうでしょう。でも、むかしよりはずいぶんとなくなっていると思います。

山田:
いまでも自分がカッコいいと思うこと、ものを突き通すなかで「ちょっと、あのひとは」とか「おかしい、飛んでるな」とかあるかもしれないですけど。でもそれこそ、0867の利充さんがちょうどいま、その扉を開いてくれてると思います。

甲田:
それは、どういう?

山田:
「ないなら、つくっちゃえ」っていう人なんで。カルチャーとか、自分がカッコいいと思うこと、もの、これまでになかったものを形にして発信してくれている。僕の映像づくりの根底にあるのも同じです。
僕らもそういうことを発信したくて、好きなファッションをして、好きな髪型をして。ドレッドヘアとかして、「これでも仕事できるんだよ」って見せたいと思ったり(笑)。

甲田:
高校での撮影、衝撃でしたよ。派手めなファッション、ドレッドヘアで現れて(笑)。すぐに高校生たちと打ち解けてましたよね。

山田:
タトゥーは、まだそんなに出さないほうがいいかな、と思ってたんですけど、最近ではもうそれもいいかなって(笑)。世間的なところでは難しいかもしれないけど、ただ個人的にはカッコいいから彫ってるので。

ストリートカルチャーが面白くなってきている

山田:
ストリートカルチャーなんですよね、考え方が。
パンクもそうですけど、「田舎の日本人」みたいな考え方じゃない。ストリートって路上とかオープンな場で自分を表現することで、閉鎖的なイメージのある地方のあり方とは、けっこうかけ離れてるんです。

※ストリートカルチャーとは、1970年代のアメリカ、ニューヨークなどで生まれ、ストリート(路上)から派生したHIPHOPやスケートボード、ファッション、音楽などの文化。

甲田:
その扉がいま、0867さんや山田さんをきっかけに開かれている。

山田:
ストリートって、人の集まる場なんですよね。だからジャンルは違っても、やっぱり仲間でやるのが楽しいんです。パンクの人がいても良い、HIPHOPの人がいても良い。ファッションに取り入れたり、BMXをやってる人もいる。

甲田:
元プロのブレイクダンサー、延吉樹美さんが、真庭市の地域おこし協力隊になっているのも象徴的ですよね。

山田:
たとえば、利充さんは小学生向けの「エコトートバッグづくりWS」とかしているから、若い世代にも広がるツールを持ってるんです。僕は80年代生まれですけど、90年代の生まれとか、下の世代にもストリートカルチャーがどんどん広がっています。

甲田:
ストリートというだれにでも開かれた空間で、「ストリートカルチャー」という共通言語で繋がっているのって良いです。

山田:
そういう人たちで集まって、みんなでイベントができたら面白いですよね。真庭はほんとにストリートカルチャーが面白くなってきていると思います。

甲田:
ますます輪が広がりそうです。

山田:
だれかが言ってたんです。「世のなか、金じゃけぇ」って。それがずっと頭に残っていて。いやいや、そうじゃねえだろって。お金は必要だけど、お金があってもなくても、仲間たちと一緒にいるほうが楽しいし。
貧乏なら貧乏で、べつに発泡酒でもいいんです。それよりも友だち、仲間たちとお酒を飲んだりしたほうが楽しい。その人たちに頼る、ということもするし、ときには頼られることもある。いまの映像の仕事も、そうしていただいているような気がします。

甲田:
縁ですね。

山田:
家で飼ってるねこの名前が、まさに縁なんです。めちゃくちゃ大切にしている言葉で。

甲田:
ねこちゃん、飼ってるんですね!

山田:
家族みんなが出ていって、ひとりで家にいるのが寂しくて。寂しさのあまり、ねこのほかに僕、子どもたちの名前をタトゥーで身体に刻んだんですよ。

甲田:
……なんだかもう人生を何周もしているような。(その後、山田さんと甲田、同い年ということを知る)

山田:
直感で生きてきた結果ですかね(笑)。自分の感覚を信じるのが、いちばん良いんです。だからやる、やらないの判断もめちゃくちゃ早いです。

甲田:
感覚って、経験とともに研ぎ澄まされていくと思います。今日は本当にありがとうございました。

山田:
こちらこそ、ありがとうございました。


取材のあと、しばらくのあいだ頭を殴られたようだった。

地域のことにあれこれ携わるなかで、「ひとの集まる場」に関わってきたつもりだった。

ところが、「ストリート」という万人にもっとも開かれた空間、価値観を活用して、「ひとの集まる場」を創出しているムーブメントがあるじゃないか、と。

山田さんのおっしゃったとおり、真庭のストリートカルチャーはこれからますます面白くなってくる。そのうねりを山田さんを通じて、0867さんを通じて、ひしひしと感じた。

聞き手:甲田智之
写真:石原佑美(@0guzon_y

 

甲田智之

真庭市在住のもの書き。2児のパパ。Twitterアカウント→@kohda_products

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