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ハンドメイドとまちづくりは根底で繋がっている。あこさんの「始め方」と「続け方」

真庭びと023 宮崎あこさん

2025年06月26日 by 甲田智之

ハンドメイドとまちづくり。
一見すると、なんの関係もないように思える2つ。

しかし、宮崎あこさんと出会って「じつは2つって根底では繋がっているんじゃないか」と思うようになった。

キーワードは、「始め方」と「続け方」
ハンドメイドも、まちづくりも、「どんなふうに始めたら良いのか」「どうすれば長く続けていけるのか」――そんなハードルとつねに向き合っている。

取材に伺った宮崎あこさんは、真庭市の新町商店街内にある雑貨屋さん「at-home」代表のハンドメイド作家さんであり、まちをメイクする有志団体「マチメク」立ち上げのひとりでもある。

ハンドメイドとまちづくり。
ここ真庭市で、どんなふうに始めて、どんなふうに続けてきたのか。

居心地の良い空間で(実際、取材なのについ長居してしまった)お話を聞いていくうちに、そこには地域で「何かを始める」と「何かを続ける」のヒントがたくさん散らばっていた。

それを証拠に、取材を終えてぼくがまず言ったのは「(何かを始めたくなったので)ぜひ一緒に企画させてください!」だった。

気がついたら私ひとりが友だちの分もつくっていました(笑)

宮崎:
ショップカードをどうぞ。

甲田:
ありがとうございます!(at-homeさんのショップカードを受け取って)めちゃくちゃステキですね。あこさん、もともとハンドメイドの制作・販売を始められたのって。

宮崎:
もう20年になります(笑)。

甲田:
20年! その「きっかけ」というのは?

宮崎:
ここが生まれ育った実家なんです。もともと「テーラーフクダ」という仕立て屋で。私のおじいちゃんが始めて、テーラーをやめてから「フクダ洋服店」になって。いくつか変わってきたんですけど、子どもの頃からファッションが身近だったとは思います。

でも当時は、とくに興味があったわけでもなくて、生まれたときから当たり前にあるものだったんです。特別にファッションが好きとか、ハンドメイドの小物が好き、と思ったことはなかったです。

甲田:
「どうしてもファッションに携わりたい!」という感じではなかったんですね。

宮崎:
そうですね。親とか家族から押しつけられることもなくて。むしろ祖父からは「ここを継ぐな。公務員になれ」と言われていました(笑)。

甲田:
(笑)自営業とはまるで真逆のような……。それでも「身近だった」というのは大きかったわけですね。

宮崎:
そうだと思います。子どもの頃からここに生地の端切れがあって、ハサミがあって、良いミシンも使うことができました。どれを使ってもだれにも怒られませんでしたから。なにかを縫ったりつくったり、そんな風に遊んでいました。

甲田:
それが原体験となって、その道に?

宮崎:
というよりも、消去法といいますか。「どちらかと言えば、これぐらいしか得意なことないかな」という気持ちでした(笑)。なので、高校卒業後は大阪のファッションも学べるデザイン系に進んで、そのままアパレル業界に就職したんです。

ハンドメイドを始めたきっかけは、そういうなかで「自分の服を自分でつくっていたこと」かもしれません。自分の体型に合う服があまりなくて。既製品をちょっと直したり、寸法を変えたり、せっせと自分でつくっていました。

甲田:
(自分で自分の服をつくる!)……身近だったからこそ得意になっていったわけですね。

宮崎:
そうして気づいたら、ハンドメイドが好きになっていたと思います。
小物づくりも学生時代、「友だちが教えてほしい」という一言から始まって、はじめはみんなで集まって教えながらつくっていたんですけど、気がついたら私ひとりが友だちの分もつくっていました(笑)。

甲田:
(笑)なんとなくイメージがわきます。

宮崎:
ただただ喜んでもらえたら、それが嬉しくて。

自宅の一角で始めたから「at-home」なんです

甲田:
(笑)でも、「ハンドメイドが好き」と「ハンドメイドを仕事にする」のあいだにはちょっと壁があるような気がするんです。好きだとしても、なかなか仕事にはできないといいますか。あこさんは「好き」をどうやって「仕事」にされていったんでしょうか?

宮崎:
大阪に出ていたときなんですけど、勝山(真庭市のなかの勝山地域)で「お福市」というのがあったんです。地元のひとたちがそれぞれ得意なものを軒先で販売する、いまで言うマルシェの先駆けのようなものでした。

甲田:
at-homeさんのある勝山の「新町商店街」って、賑やかなイベントやマルシェがいろいろ行なわれていますよね。

宮崎:
そこへ私のつくっているものを出したら、けっこう売れてくれたみたいで。私は当時、大阪に住んでいたので、現地にはいなかったんですけど、店先に並べてくれた親から「けっこう売れたよ」って連絡が入って、嬉しかったんです。

甲田:
そういう「出品」の機会があったんですね。

宮崎:
ここ「新町商店街」あたりはそういう風土があったのかもしれません。食品衛生のことがまだあまり言われていない頃から、たとえば地元の奥さまが「からあげをつくるのが得意だから出してみる」とか、「焼き菓子をつくったから出してみる」「本格的なお寿司をつくったから出してみる」とか。

いまみたいに、頻繁にマルシェとかがあったわけではないんですけど、自分たちのつくったものをイベントで出してみる、そのハードルは低かったように思います。

甲田:
本格的にハンドメイドを仕事として始められたのは、真庭に戻って来られてからですか?

宮崎:
そうですね。真庭に戻ってきたのが30歳のときで「子育て」がいちばんの理由です。都会での暮らしも充分楽しんで、年々「やっぱり真庭って良いなあ」って思えてきたんです。

子どもをのびのびと育てられて、私の場合は実家も近くて。あと、大阪の土地の値段とぜんぜん違って、真庭なら家も建てられますし(笑)。その家の一角で、ハンドメイドのショップをオープンしました。自宅の一角で始めたから「at-home」なんです。

甲田:
そうだったんですね!

オモテに立って販売するなんて。でも出てみたら、楽しかったんです

宮崎:
場所代がかからず、気軽に始められることもあって、当時は全国的に「ハンドメイドの自宅ショップ」が流行っていたんです。

甲田:
では、真庭に戻られてからすぐにオープンされて?

宮崎:
いえ、オープンまでには10年ぐらいかかっているんです。戻ってすぐは、まだここを父がメインでまわしていたので、ここに小物を置かせてもらったり、オーダーがあったらそれを受けたりして。なかなか「えいや!」とならなかったんです。

甲田:
すぐに「仕事」として、いまのカタチになったわけではなかったんですね。

宮崎:
そもそも戻ってすぐはまだ、お客さんがそんなについていなかったんです。あるとき、ここから近くにあるギャラリー「勝山文化往来館ひしお」で「ひしお手づくり市」というマルシェがあったんです。携わっている方が「出てみない?」って誘ってくださって。

そのときは「お福市」もなくなっていて、本当に久しぶりの出店でした。久しぶりどころか、私がオモテに立って販売するなんてはじめてで。恥ずかしかったんですけど、思い切って出てみたら、とても楽しかったんです。お客さんとのやりとりのなかで売れるのも嬉しくて。そこで盛り上がって「よし、自宅ショップを進めよう!」って思いました。

甲田:
小さく始めたことが、つぎに進むきっかけになったわけですね。

宮崎:
10年かかったんですけど、イベントを通してお客さんと繋がって。そういう期間があったから、オープンしてすぐにたくさんのお客さんが来てくださったんだと思います。

イベントに出店すること自体がお店の宣伝にもなって、来てくださったお客さんがまたクチコミをしてくださって、どんどん輪が広がっていったイメージです。私も「楽しい!」がこうじて、ハンドメイドマルシェを主催してみたり(笑)。

甲田:
あこさんから溢れる「好き!」や「楽しい!」の広がりがスゴいです! この空間も「好き!」や「楽しい!」に充ちていて、居心地良いんですよね。

本当に好きな人だけが残るんです

甲田:
改めて、ハンドメイドを「仕事」として続けていくための秘訣のようなものはありますか?

宮崎:
秘訣かどうかはわかりませんが、ハンドメイドって始めやすいんです。仕事しながらとか子育てしながらとか。それが魅力なんですけど、でもやめていっちゃう人も多いんですよね。仕事が忙しくなったら、どうしても手から離れていってしまう。
反対にいえば、本当に好きな人だけが残るんです。ものづくりをしているときが楽しいとか、お客さんとのやりとりが楽しいとか、まずは「好きでいること」だと思います。

もうひとつ、「仕事」という点でいうと、私はどんなオーダーも断らないようにしています。「けっこう難しいかな」というのも、なんとかできれば達成感があって。その達成感が好きなんです。
なによりお客さんとやりとりを重ねて、重ねてできあがったとき、お客さんがとっても喜んでくれるんです。その姿を見ると、私も嬉しくて。

甲田:
(……さらりとおっしゃっているけど、「どんなオーダーも断らない」って、相手に喜んでもらいたい、という優しさと、これまでの経験や実力があるからできることのような)
ハンドメイドに興味のある方、ぼくのまわりにもけっこういらっしゃるんです。

宮崎:
ハンドメイドやろうかな、と思ってもらえるの嬉しいです。さっきもお話したんですけど、ハンドメイドって始めやすくて。いまなら、つくり方をYouTubeで知って、ネットで材料を買うこともできます。
そしてつくったら、ぜひ「イベント」に出してみてください。世に出してみて、お客さんに反応をもらって、少しずつステップアップしていく。ネットでも良いんですけど、私の場合は、反応とか表情がその場で見られる「対面」が良いかな、と思っています。

甲田:
真庭には「自分が出店できる」イベントがけっこうありますよね。「ManiColle(マニコレ)」でも情報が得られますし(……なんか、宣伝っぽくなっちゃったな)。

マチメクって立ち話から始まっているんですよね

甲田:
今回、「ハンドメイドとものすごくリンクしているな」と思うのが、あこさんたちがされている「マチメク」さんの活動なんですよね。
ハンドメイドのように小さく始めていながら(決して小さくはないかもしれませんが)、「楽しい!」とか「面白そう!」で、どんどんその輪が広がっている印象があって。「マチメク」さんについて教えていただけますか?

宮崎:
この「新町商店街」で店舗を構えるアーティストのwakicoさん、カレー屋「Indigo blue」の藤本さん、デザイナーの山浦さんが発起人で、まちの将来をいろいろ話しているうちに「じゃあ、なにかできることをできるひとでやってみる?」って始まったんです。

皆さん、得意分野があるので、「未来のあることをやりたいね」って。「勝山にあるいろんなお店を知ってもらいたいなあ。じゃあ、町並みマーケットみたいなのをしてみようか」という話になって、2023年に開催してみたんです。
江南さんという音楽家さんたちが「マチメク楽団」として関わってくださって、中央図書館さんもウォークラリーで協力してくださって、あれからどんどん仲間が増えているように思います。

甲田:
気負いのなさが良いですよね。「地域を変革するぞ!」と会議を重ねていく重さがまったくないといいますか、とても居心地の良い居場所になっているのかな、と思います。

宮崎:
立ち話から始まっているんですよね。ここはほんとに、すぐそこにwakicoさんのギャラリーがあって、Indigo blueさんもあって。商店街の良さといいますか、ふらりと立ち寄れて、いろんな話ができるんです。
あと「面白いな」と思うのが、地元のひとって私ぐらいなんです。ほかは移住者さんが多くて。移住して来られた方が、勝山とか真庭の将来をいろいろ考えてくださっているのも「マチメク」の特徴のような気がします。

甲田:
これまでの「マチメク」さんの活動にはどういうものがありますでしょうか?

宮崎:
まちをメイクする」という意味を込めて「マチメク」なんですけど、たとえば中国勝山駅から真庭市立中央図書館までの1kmちょっとぐらいの町並みで、お店や空き店舗さんを活用して、食べものを出したりいろんな体験ができたりの「町並みマーケット」の開催とか。
そこから派生して、音楽家の江南さんが中心となって「マチメク楽団」として、イベントを盛り上げてくださるような音楽会を開いたり、音楽を奏でながらまちを練り歩いたり。

甲田:
見ました! 何人ものひとがいろんな楽器で音楽を奏でながら、まちを歩くんですよね。

たまたま出会ってしゃべって。そのうち、ここが居場所になっていく

甲田:
また、女性・男性を分けるわけではないのですが、それでも「マチメク」さんって女性の方が多い印象があって、これまでのいわゆる「まちおこし」の団体とはちょっと違うような気がしています。

宮崎:
話がさかのぼるんですけど、もしかしたら私のなかに、むかしの「お福市」、この商店街に住むお母さんたちが自分の得意なこと、得意料理を出していたむかしの「お福市」が残っていたのかもしれません。
みんなでおしゃべりしながら、ものごとを進めていく感覚ですよね、私たちもちょっとおしゃべりをしていただけだったのに、気づいたら2時間とか経っていて(笑)。

甲田:
(笑)その時間のゆるやかさが、魅力でもありますよね。

宮崎:
おしゃべりしているうちに盛り上がって、どんどん話がまえに進んで、ものごとが決まったり動いたりしているんです。

甲田:
会議とかのかた苦しさがなく、「楽しそう!」「面白そう!」で進んでいくから、「私もやってみたい!」という方が増えているように思います。

宮崎:
そうなんですよね。話しているうちに、ワクワクしてくるんです。私たちのことを知ってくれて、若いひとたちが「こんなことやってみたいんですけど」って、ほわんとしたアイデアだけでも持ってきてくれたら嬉しいです。そうしたら、またみんなでいろいろしゃべって、「なにかできないかな」って。

甲田:
事実、若いひとたちの居場所にもなっている気がします。

宮崎:
この通りをうろうろしていたら、だれかとたまたま出会ってしゃべって。そのうちにここがその方にとっての居場所になって。そういう循環が生まれたら良いなと思います。

甲田:
居心地の良い空間づくりは、at-homeさんからも伝わってきます。
(……ハンドメイドでも、続ける秘訣を「好きでいること」っておっしゃっていたけど、マチメクさんの活動と通じているような気がするんだなあ)

いつか「ひとに会う」マチメクツアーができたらいいな

甲田:
これからの「マチメク」さんで考えていらっしゃることを教えてください。

宮崎:
マチメクって、みんな得意分野があるんです。それを生かして、「いつかマチメクツアーみたいなのができたらいいな」ってあくまで私の妄想ですけど(笑)。中国勝山駅でふらりと降りて、このあたりでショッピングとかワークショップを楽しんでもらうようなツアーです。
ギャラリーで絵を見たり、カレーを食べたり、ちょっとお茶をしたり。自由にこのあたりをまわりながら、観光客さんが勝山のひとたちとしゃべって。「ひとに会う」ようなツアーができたら良いなと思っています。

甲田:
めちゃくちゃ良いです! スケジュールが詰まっているツアーではなくて、立ち寄ったところで「つぎはあそこに行ってみたら」と地元のひとから教えてもらってまわるツアーとか、ステキだと思います。「勝山のお雛まつり」はそんな風になっていますよね。

宮崎:
そうかもしれないです。毎年、お雛まつりの時期にこのあたり一帯、家々にお雛様が飾られるんですけど、ここにも毎年、必ず来てくださるお客さんがいて。

甲田:
お雛まつりの期間中、あこさんに会いに来られている方が、ひっきりなしにいらっしゃっているのが見えました!

宮崎:
そういうことが日常になれば良いですよね。

甲田:
ぼくたち、移住相談窓口もしているんですけど、あこさんはじめ、マチメクの方に移住希望者さんを案内したら、良い雰囲気のなかで受け入れてくださる、そんな安心感があるんです。移住者さんの「まちづくりへの思い」も大切にしてくださっているといいますか。

宮崎:
(笑)ありがとうございます。

甲田:
ぜひぜひぼくも何か企画とかご一緒したいです!

宮崎:
良いですね。一緒にやりましょう!

甲田:
よろしくお願いします!

宮崎:
こちらこそ、よろしくお願いします。

じつは取材中、いろんな方々が訪れた。
オモテの通りからat-homeさんをちらりと覗いて、「あ、あこさんがいる」と思ったら、「こんにちは」と地元の方々が店内へ入って来る。

用事のある方も、ない方も(笑)。
そしてちょっとした立ち話をして、帰っていく。その気軽さのなかに、まちをメイクするアイデアや情報交換があったりする。義務感なんてない。
日常の延長線上に、まちづくりがあった。

また、at-homeさんに並んでいる商品を見ていたら、あこさんが「これ、地元のお母さんがつくった作品で、人気なんです」と教えてくれた。
聞けば、そういう作品も並べているらしい。

あこさん自身が、「出品の機会」を創出している。

ここ、at-homeさんが「始まり」の場所にもなっていた。

◆at-home
岡山県真庭市勝山285
公式Instagram

◆マチメク
公式Instagram

聞き手:甲田智之
写真:石原佑美(@0guzon_y

甲田智之

真庭市在住のもの書き。2児のパパ。Twitterアカウント→@kohda_products

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