企業活動とSDGs。一体感を持って取り組むために大切なこと。〜服部興業株式会社〜
里山SDGs 007 服部興業株式会社
地域に根ざし、持続可能な取り組みを行っている企業や団体に贈られる「おかやまSDGsアワード」。
2020年は6つの企業・団体が選ばれ、その中には真庭SDGsパートナーに登録されている企業もありました。
SDGsは、世界が抱えるさまざまな課題を解決し、持続可能でよりよい世界を目指すために設定された、17項目の目標です。
最近では「SDGsに取り組みます」と宣言し、実践する企業や団体も増えてきました。
でも、企業として、団体として一体感を持って取り組むためには、何が大切なんだろう?
そう思い、服部興業山林部、川原洋平さんを訪ねました。
◆創業200周年の年に「SDGs宣言」
服部興業さんは、岡山市に本社がある企業です。
1818年に、牛窓で材木屋として創業しました。
主な事業は石油製品や建築・土木資材の販売や施工、ガソリンスタンドやコンビニエンスストアの運営など多岐に渡ります。
事業の多くは岡山市が中心ですが、山林部の活動拠点は真庭市。
落合地域に400haの山林を所有し、そこの管理をされています。
2017年にはCSR委員会を組織し、外部アドバイザーも入れてSDGsについての勉強を開始。
2018年の創業200周年を機に、「SDGs宣言」を発表しました。
それ以降、各部門が積極的にSDGsに取り組まれています。
◆自分たちの仕事が社会にどう貢献しているかを見える化
服部興業さんは、自分たちの仕事がどのようにSDGsにつながっているか、徹底的に見える化されています。
例えば、山林部のブログ「山の便り」。
四季折々の山の様子を発信することで、山の生態系や絶滅危惧種を把握し、保護することが狙いです。
SDGsの項目では、「④質の高い教育をみんなに」と「⑮陸の豊かさを守ろう」に該当します。
この山の便りについて、具体的な更新回数の目標を設定されています。
2020年は30回。
前年の21回から9回増えています。
そして、実際に更新した回数は40回。
達成度は133%でした。
それを踏まえて、2021年の目標を45回に設定。
具体的に数字で示すと、だれが見てもわかりやすい。
振り返りもしやすく、自分たちの仕事がどのように社会に貢献しているのかわかるのです。
▲珍しい「コテングコウモリ」を発見したときも、山の便りを更新されました▲
ほかにも、間伐面積や環境教育についても、具体的な数値目標を設定されています。
服部興業さんのCSRレポートには、各部門の目標と達成度が一目見てわかりやすくまとめられています。
◆SDGsに取り組んで、山の解像度が上がった
実際に社会貢献度を見える化することで、変化してきたこともあるようです。
「山林部の社員は、重機作業中にヘビなどの生き物が出てきたら、安全な場所に逃がすようになりました」
木だけでなく、少しずつ山の環境全体に目を向けるようになったことで、山の変化や貴重な生き物が目に留まるようになりました。
例えば、岡山県のレッドデータブックに登録されている「タカチホヘビ」は、川原さんが草刈りをしているときに偶然見つけました。
▲川原さんが見つけたタカチホヘビ▲
ふつう、ヘビの皮膚は乾燥を防ぐようになっています。
しかしタカチホヘビは乾燥や高温に弱く、草などが生えた湿った環境でないと生きていけません。
そのため、間伐や草刈りなどの山の管理が、逆に生息環境を狭めているのです。
「タカチホヘビを見つけて以降、草刈りの意識が変わりました。地際まできっちり刈るのではなく、草を残すようになりました」
僕も「山は手入れが必要」というイメージを持っていたので、手入れをしすぎると住めなくなる生き物がいることは驚きでした。
「景観はあまりきれいじゃない状態が続いているんですけどね」
人にとっては、あまり望ましい状態ではないかもしれません。
でも、自然のバランスを考えると、草をある程度残したほうがいい。
SDGsをきっかけに山の解像度が上がったことで、本来の山の姿に近づきつつあるのかもしれません。
◆知るからこそ見えてくる自然のバランス
さらに山の環境を細かく観察すると、自然のバランスの絶妙さが見えてきます。
例えば、松茸。
服部興業さんの山には松茸が自生しており、毎年収穫して贈答用として取り扱っています。
松茸は管理が行き届き、風通しが良く適度に日が差す山にしか生えません。
そのため山林部では、毎年剪定や落ち葉かきをして、松茸が生える環境を維持しています。
あれ?
日当たりが良くて風通しが良いと乾燥してしまう。
これだと、先ほどのタカチホヘビにとっては住みにくい環境なのでは・・・?
でも、服部興業さんの山にはタカチホヘビもいるし、松茸も自生する。
川原さんをはじめ、山林部のみなさんが山の環境を管理することで、絶妙なバランスを保っているのです。
「僕らの方が、自然の中に住ませてもらっているという感覚になってきました」
普段の暮らしでは、人間が生活していて、その周りに自然があると思いがちです。
でも、本来は自然の中の一部に人間の暮らしがある。
忘れがちなことですが、持続可能な社会のためにも、とても大切な感覚です。
◆SDGsをきっかけにつながりを広げていきたい
服部興業さんでは、山林部以外でも積極的にSDGsにつながる取り組みを実施されています。
どうして、会社全体としてSDGsの機運が高いのでしょうか。
「10年以上前から毎月1回、会社のみんなが集まる勉強会をしています」
勉強会では、それぞれが仕事の中での成功体験を発表。
その中で参考になることをそれぞれが実践することで、仕事の質を高めていくのです。
毎月コツコツ積み重ねていた勉強会。
服部興業さんには、SDGsが広がる風土がありました。
最後に、今後SDGsをどのように広げていきたいか、川原さんにお聞きしました。
「今までは内向きの取り組みが多かったのですが、今後はSDGsをきっかけに外とのつながりを広げていきたいです」
SDGsを社内だけに留めず、活動の輪を外に広げていく。
持続可能な社会を目指すうえで、企業に求められる1つの姿かもしれません。
▲「今後は学校などと連携して、環境学習に積極的に取り組みたい」と仰っていました▲
―――企業がSDGsに一体感を持って取り組むために大切なこと
服部興業さんでは、部門ごとの情報共有と、仕事を通じた社会貢献を大切にされていました。
ものすごく難しいことを“当たり前のこと”のように話す川原さんの姿が、とても印象的でした。
▲服部興業さんのCSRレポートには、部門ごとの目標が細かく記載されています(クリックすると拡大してご覧いただけます)
▲服部興業さんの2020年CSRレポートはこちら(クリックするとPDFが開きます)
文・取材:藤本一志