大阪に生まれ、大阪で育った大岩功(おおいわ いさお)さん。
「デンマークとイスラエルに住んでいた、理科の教員」という、なんとも謎の多い経歴。ただ、そこには、一貫した「教育」への想いがありました。

そして、真庭の蒜山(ひるぜん)中和(ちゅうか)へ移住。
里山でていねいに暮らしながら、「豊かな暮らし」が体感できる多文化共生スペース「はにわの森」の代表となり、真庭市地域おこし協力隊にも着任。

移住のきっかけは? 里山での暮らしぶりは? 大岩さんにとっての「豊かさ」とは?

いま、注目を集めている「はにわの森」のことをお聞きしながら、「田舎ぐらし」にまつわるあれこれを、赤裸々に教えてもらいました。

※はにわの森ホームページ


甲田:
移住するよりもまえから、真庭とのつながりがあった、とお聞きしました。

大岩:
そうなんです。もう30年まえになります。
学校教員をしている両親が、僕たち3兄弟に、「あれこれと教えるよりは、自由な環境のなかで、子どもたち自身がいろいろ感じてもらったほうがいいだろう」と、放し飼いできる場所をつくってくれたんです。
それが、蒜山との出会いです。

場所は蒜山なんですが、別荘地ではなくて、小屋がぽつんとあるだけの森の広場でした。住んでいた大阪とはぜんぜん違う環境。当時、僕は小学校の低学年でしたけど、子ども心に「すごくいいな」って思って。

それ以来、夏休みに1週間とか、家族で滞在していたんです。だから、真庭とのご縁はかれこれ、30年ぐらいになります。

甲田:
それが、ここ「はにわの森」なんですね。
でも、またどうして大岩さんが、この「はにわの森」を運営しようと?

大岩:
子どものときは良かったんですけど、僕たちも大人になって、家族として「そろそろ、あの森をどうしていこうか」という話になったんです。
ちょうどそのころに、「真庭なりわい塾」という、地域に密着した育成塾がはじまるというのを、たまたま雑誌で見て。
そのフィールドがまた偶然にも、「はにわの森」がある蒜山の中和(ちゅうか)地区で。
家族に話してみたら、「おお、おもしろいな。行ったらええやん」となって「真庭なりわい塾」に通うことになりました。

ただ、その段階ではまだ、「移住」というのは考えていませんでした。
「はにわの森」を活用して、「なにかおもしろいことはできないかな」とぼんやり考えたりはしていましたが、それぐらいです。
流行っていた「2拠点生活もいいかな」とか。

でも、「真庭なりわい塾」を通じて、本当にいろんなことを感じて。

本当の豊かさって何だろう、自分らしい暮らしって何だろう、って。
自分の生き方であったり、将来のことであったり。暮らしについて、落ち着いて考えることのできる時間が、なりわい塾にはあったんです。
そうして、いろいろ考えていくうちに、「じゃあ、移住してみようか」と。

だから、移住の直接的なきっかけは、「真庭なりわい塾」になりますかね。

※真庭なりわい塾ホームページ

甲田:
「真庭なりわい塾」って、その地域を歩いて、見聞きして。
中和地区で、農山村の暮らし、人に触れながら、これからの生き方、なりわいを描いていくプログラムですよね。
そういうことに、もともと興味があったんですね。

大岩:
はい。もともと、「ていねいに暮らすこと」や「暮らしを手づくりしていくこと」、「ゆるやかな時間を生きていくこと」に憧れがありました。
中和地区の皆さんって、多くがそういう暮らしをされていて。
なりわい塾で、皆さんのお手伝いをしていくなかで、「ここなら、僕もそういう暮らしができるかもしれない」と思ったんです。
自分のなりわいを持ちながら、生活のまわりのこと、たとえば食べるものとかエネルギーとか。そういうものも、自分たちでちょっと手をかけていく。

いわゆる「半農半X」に、心が響いたんです。

甲田:
大岩さんは、教員だったんですよね。
かってなイメージですけど、先生ってストレスが多そうで(笑)。だから、「ゆるやかな時間を生きていくこと」に憧れがあったりとか?

大岩:
それはありますね。
中学の理科の教員だったんですけど、労働時間がすごく長かったんです。
ただ、「労働時間 = 拘束時間」だと考えると、こちらでも暮らしのちょっとしたことに手間をかけたり、地域のつとめがあったり。
正直なところ、拘束時間はけっこう長いんです。

だから、忙しさはあまり変わってないですね(笑)。

でも、大切なのは、「自己裁量で進められることが多い」という点です。自分のペースでできるというか。ストレスをほとんど感じなくなりました。

甲田:
こちらへ移住して、暮らしぶりが変わったわけですね。

大岩:
もうぜんぜん違います。
なんていうんですか、なにかしないといけないっていう気負いとか、気づかれみたいなものがだいぶ減りました。
心のゆとりのなかで「クリエイティブに生きられる」というか。
ここでは「自分で生み出している」という実感があります。「消費する生活から、生産する生活へ」変わっていく実感ですね。

甲田:
暮らしを手づくりしていく感覚。
そんな中和での暮らしぶりとか、地域の方とのお付き合いとか、いわゆる「田舎ぐらし」についても聞きたいところですが。
まずは、大岩さんのされている拠点「はにわの森」について教えてください。

大岩:
ひとことで言うのが、難しいんですけど。
子どもも、親も、一緒に体感できる「里山暮らしの実験場」です。
いわゆる、ワークショップ空間ですね。

理科の教員だったので、理科室になぞらえて。
理科室って、実験器具とか素材とかたくさん置いてあって。それらをかけ合わせて、いろいろ試すことができる。
「はにわの森」も同じなんです。
ここ、「はにわの森」にも、里山暮らしのためのいろんなツールがあります。
山仕事もそう、畑仕事もそうです。里山の素材がたくさんあって、言葉とか文化はもちろん、水、茅、薪、野草など。
豊かに暮らすためのヒントが、ここにはやまほどあるんです。

それらを「はにわの森」という実験場を使って、みんなと一緒に、いろいろかけ合わせたりして、新しい物質というか、新しい価値を生んでいく。

甲田:
「豊かな暮らし」がキーワードになっている、「はにわの森」のプログラム。「世界まるごと体感プログラム」もおもしろいですよね。

大岩:
ありがとうございます。
これまで実施したものでいうと、イスラエルとか、ベトナム、ボルネオ島とか、そういうところからゲストファミリーが来てくれて。地元の中和地区からも来てくれて。
おたがいの「豊かな暮らし」を体感しながら、みんなで合同キャンプをする、という内容でした。

甲田:
イスラエル、ベトナム、ボルネオ島!
ピンときたり、こなかったり(笑)。


甲田:
そういえば、大岩さんって、海外留学をされていたとか。

大岩:
はい。
大学を卒業してからなんですけど、デンマークにある全寮制の成人向け教育機関「フォルケホイスコーレ」というところに、1年半ぐらい留学をしていました。
私が通っていた学校では、数ヶ月、いろんな国の人とひとつの寮で寝食をともにしながら、いまの国際情勢とか社会のことを学んでいく。
本当に、国籍、人種、宗教を問わないんです。
カリキュラムらしいものはありますが、それよりもいろんなバックグラウンドを持った人たち、その国ならではの人生経験を持った人たちが集まって、相手に共感したり、違いに気づいたり。
僕も学びながら、「すごくいいな」って感じて、移住するなら「こういう空間をつくりたいな」という気持ちがありました。

甲田:
その体験が、「はにわの森」に生かされているわけですね。
ホルケホルス、コ……(まったく言えない)へ行くきっかけは?

大岩:
フォルケホイスコーレです(笑)。

大学の恩師にすすめられたんです。
僕は教員ですので、子ども、つまり未来とともに仕事をする立場です。だからこそ、「フォルケホイスコーレを見てこい」ってすすめられて。
これからの世界、日本がどうなっていくのか。その未来のひとつが、フォルケホイスコーレにはある、と。留学を決めました。
おっしゃるとおり、そのフォルケホイスコーレで体験したことが、「はにわの森」に生かされています。

甲田:
その後、イスラエルにも行かれたんですよね。

大岩:
デンマークで知り合った、イスラエルの人と仲良くなって。
その人はイスラエルに帰って、僕は日本に帰ったんですけど、それからも連絡を取り合っていて、やがて「イスラエルに行こうか」という話になったんです。

ユダヤ系も、パレスチナ系も公平に見てみたい、と思っていたんですけど、空港でパレスチナ系の友人の名前を出したら、即缶詰にされました。
3時間ぐらい(笑)。
「僕はどっちの友人にも会いに行くんだ」って言ったら、むしろ怪しまれて。「こいつ、活動家か」と思われてしまって。
その後、無事、友だちに会えて、結局4年半ぐらい、イスラエルに暮らしていました。

甲田:
えっと。言葉は?

大岩:
ヘブライ語です。いまでもぎりぎり、ヘブライ語の会話はできると思います。
こっちで使う機会ってほとんどありませんが(笑)。

考えてみると、僕の場合、「豊かさ」「豊かな暮らし」というのが、キーワードになっていると思います。

甲田:
豊かさ、ですか。

大岩:
たとえば。
「はにわの森」で開催したイベント、「イスラエルの豊かな暮らし」でもお伝えしたんですけど、向こうって金曜日の日没から土曜の日没まで「安息日」っていうのがあるんです。
僕たちでいう、日曜日です。

でも、僕たちの感覚とちょっと違っていて。
安息日のあいだは、いっさい働いてはいけない。
だから、金曜日の昼ぐらいから、ばたばた大晦日みたいになるんです。買い出しとか、つくり置きとか。
で、金曜の夜を迎えたら、とたんにめっちゃ静かになるんです。
公共交通機関もとまるし、電気のオンオフも制限される。商店もぜんぶ、閉まっている。

つまり、どんな仕事であっても、みんな等しく「家族の時間がある」ということなんです。

もちろん、驚くことのほうが多かったですけど、「自分たちにとっての豊かさ」って、何なんだろう、と思いました。
コンビニが24時間あいているのも、ひとつの豊かさかもしれない。でも、本当の豊かさって、そういうことなんだろうか、って。

甲田:
なにが、自分たちにとっての豊かさなのか。

大岩:
デンマークの病院でも、そういう体験をしました。
デンマークって、あまり薬を処方してくれなかったんです。40℃の熱を出して、インフルエンザで診てもらったとしても、「帰って、寝てください。はい、つぎの人」って言われる(笑)。
医療費をおさえるためもあるんでしょうね。
生活習慣病に関しても、「では、栄養バランスの良いものを食べて、様子を見ましょう」と帰されてしまう(笑)。

ある意味、根本的なところですよね。
暮らしから出てきた、身のさびというか。
「それは、薬で治すたぐいのものじゃないでしょう。医療費がかさむから帰ってくれ」って。でも、なにも考えないで消費するより、ずっと論理的なんです。

そういういろんな国の、いろんな習慣、文化を知ると、「自分たちの社会がどういう豊かさに基づいているのか」に気づくことができるんじゃないか。
それが「はにわの森」の「世界丸ごと体感キャンプ」というプログラムになっています。

甲田:
いろんな国の「豊かさ」が、体験できるんですね。

大岩:
そのぶん、「はにわの森」って、説明しづらいんです(笑)。
「はにわの森ってなにをするの?」ってよく聞かれるんですけど、中身はどこまでも自由でかまわないと思っていて。
僕たちがしているのは、「豊かな空間の運営」なんです。
だから、こちらでコンテンツをつくりこむのではなくて、コンテンツを持っている人、中身をつくってくれる人たちを呼んで、一緒にやる、というスタンスです。

甲田:
たしかに、説明が難しいですね(笑)。

大岩:
ですよね(笑)。
ただ、ひとつだけルールがあって。
親だけを集めたり、子どもだけを集めたり、というのはあまりしたくない。

教員の経験からすると、この忙しい日本で、休日って、やっと親子一緒にいられる時間なんです。
それなのに、わざわざ子どもだけをキャンプにあずけたり、はしたくないんです。
さっきの「安息日」の考え方です。
今後こども向けのキャンプをするかもしれませんが、できれば親子一緒に過ごせる空間をつくりたい。

甲田:
「はにわの森」で展開していることって、ひとつの教育のかたちだと思うんです。
とくに、大岩さんは理科の教員として、子どもたちと接してきた経験がある。そのなかで子どもたちと接するうえで、大切にしていることはありますか?

大岩:
う~ん。主体性ですかね。
極論ですけど、教員なんていないほうがいいと思っています(笑)。
教育空間があって、子どもたちが主体的に学んでいる。
もちろん、社会生活をする、礼儀作法であったり、他人に迷惑をかけてはいけないとか、そういうことはある程度伝えないといけないとは思います。

でも、それも親が日常からそういう姿でいれば、子どもたちはまねをすると思うので。
一般的な「教える」ではなくて、一緒になにかをする、とか、見守っている、というイメージ。それを心がけています。

甲田:
その子どもと親の関係性が、「豊かさ」につながっていく。


甲田:
ちょっと、すみません。
本筋からは離れてしまうんですけど、大岩さんが教員を志したのって、どういうきっかけがあったんですか?

大岩:
(笑)、もともと、教員の家系だったというのが大きいですね。
でも、もうひとつ、きっかけがあって。

もともと、環境問題に興味があったんです。
甲田さん、ジュゴンって知ってます?

甲田:
はい。あの、海にいて、人魚のモデルになった、大きな(説明になっていない)。

大岩:
そうです。
ジュゴンって、沖縄周辺の海に、生態系の頂点としているんです。そのジュゴンを保護するとか、保全するとか、学んでいくうちに、これって環境問題じゃないな、って。

甲田:
環境問題じゃない?

大岩:
政治問題だったんです。
人間が、人間の社会をちゃんとコントロールできていないあおりを、ジュゴンが受けている。そういうことがわかって。
この社会で、自分たちが自分たちの責任をとる、完結させられる、そういう社会であってほしい、と願ったっていうのがたぶん、僕の根っこにあります。
その鍵となっているのが、教育だろう、と思って、教員を目指したという経緯があります。

甲田:
なるほど。そこにも「豊かさ」のヒントがあるような気がします。
あ、すみません、「はにわの森」の話だったのに。

大岩:
いえ(笑)。


甲田:
豊かな暮らしが体感できる「世界丸ごと体感プログラム」のなかには、海外だけではなくて「中和の豊かな暮らし」とか、「真庭の豊かな暮らし」もありましたよね。
そちらは、いかがでしたか?

大岩:
あ、そうなんです。
それに際して、気づいたことがあって。

それって、そもそもプログラムとして提供するようなものではないな、と。

甲田:
というと?

大岩:
日常の暮らしのなかで、充分「豊かさ」が体験できるんです。
そもそも、プログラムにする必要がない、というか。

ただ、日常的すぎて、ふだんはなかなか気づくことができない。
だから、いろんな国の「豊かな暮らし」に触れて、相対的に気づいていく。自分たちの暮らしへの理解が深まっていく。
そう思うようになりました。

甲田:
たしかに。
ちなみに、ちょっと現実的なお話も聞かせてください。皆さんが興味のあるところ。「はにわの森」の事業性はいかがですか?

大岩:
(笑)、まだまだこれからです。
もともと、教育福祉系の人間なので。
教育福祉って、みんなの困りごとを解決して、人とのつながりのなかで生きていく、いわゆる「守り」の仕事なんです。
営業職みたいに、がつがつ稼いでいく仕事じゃなくて。
だから、見えにくくて、お金もうけがしづらいんです。

甲田:
なんだかわかります。
大切な仕事だとは思うんですけど。

大岩:
はい。だから、ある程度、給料が保証されています。

でも、いまは個人でやっていて、保証の対象外なので(笑)。
セルフプライシングの必要性が出てきました。
「もっといただいても良いんじゃないか」と思うときもありますし、「いやいや、人とのつながりのなかでさせていただいてるんだから」と思うときもあります。

目標としているのは、教育の価値観が転換する場に立ち会う、ということ。
でもまあ、なかなか試行錯誤しています(笑)。

甲田:
その点で、事業性をもつまでの期間と、「地域おこし協力隊」の制度が一致したわけですね。

大岩:
そうですね。
真庭なりわい塾に通うなかで、アドバイスをいただいたんです。
「大岩くんの考えていることは、地域おこし協力隊という制度をつかって、半官半民という切り口のほうが進めやすいかもね」って。
たしかに、「はにわの森」でやりたいことって、教育委員会さんをはじめ、市役所の各課や学校教育現場、自然体験活動をされている業者さん、キャンプ場と関わったり。
半官半民の地域おこし協力隊という立場が、とても動きやすいんです。

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