甲田:
それでは少しずつ、中和地区での暮らしぶり、いわゆる「田舎くらし」についても、聞いていきたいと思います。
「はにわの森」の運営者として、また地域おこし協力隊として、「地域に入る」という点はいかがでしたか?

大岩:
そうですね。
ここは、中和地区の別所というところで。
その別所集落の町内会長が、僕にとって、数歳うえの兄貴分みたいな人なんです。
「真庭なりわい塾」を通じて、その人と出会えたことで、とてもスムースに加えてもらうことができました。

甲田:
お世話をしてくれる、というか、面倒を見てくれる人がいる、というのは、とてもポイントだと思います。

大岩:
あとは、朝の時間、まさに「朝飯まえ」の時間も、僕にとっては大切で。

だいたい、朝5時半ぐらいから動きはじめています。
早い、と感じるかもしれないですけど、特別なことをしている、という感覚はなくて、これって、農家さんと同じリズムなんです。
自然と地域と、リズムが合っているのがわかる時間なんです。

甲田:
その時間、大岩さんは具体的にはどういうことを?

大岩:
「はにわの森」の整備とかです。
山の整備をしながら、間伐作業をして、出てきた木材をたま切りにして、薪割りをしていく。広葉樹であれば、薪になるものと、木工の素材になるものに分けて、集めていく。

甲田:
反対に、夜の時間は?

大岩:
大阪にいたときと比べると、やっぱり飲み歩くのは、減りましたね。
朝飯まえの仕事、と夜の時間は、なかなか(笑)。共存させたら、倒れると思います。

甲田:
呑み会はありますか?

大岩:
もちろん、呑み会はあります。
おもしろいのは、その呑み会も「消費」ではないんです。だれかの家に持ち寄りで集まったりするので、その呑みの場で完結しない。ずっとつながりがつづいていくんです。
そういう意味では、「質」みたいなものが変わったように思います。

甲田:
地域の皆さんとのお付き合いもいい感じですね。

大岩:
おかげさまで(笑)。
ここのウラとか、地域の方の家に集まって呑んだり。
イノシシが捕れるたびに、自分たちでさばいて食べたりする。
そういうところに呼んでもらって、こんにゃくとか、豆腐とか、ぜんぶ自分たちでつくれるおばあちゃんから、食べものをいただいたりして。
こちらの言葉で、「てごぉする(手伝う)」って言うんですけど、おたがいに見守ってくれたり、関わり合ってくれる関係があって。
地域の人たちにてごぉしてもらっています(笑)。

「はにわの森」というわかりやすい拠点があったのも大きかったかな、と思います。

甲田:
中和の皆さんは、とても温かいですよね。

大岩:
そうですね。
地域の子どもたちが、「がんちゃん、遊ぼ」って来てくれる。
まあ、うちのドアって建てつけが悪いんですぐに開かないんですけど(笑)。

晴れた気持ちのいい朝とか、まえの畑でおじいちゃん、おばあちゃんが作業をしていて。
「おはようございます」って。
ごみを捨てたりしているあいだに、「このホウレン草持ってくか」と用意してくれたり。

甲田:
地域の活動については、いかがでしょうか?

大岩:
お祭りとか、草刈りがあります。
共同の草刈り、水路掃除というのがあって、「稲をやってないからええよ、それは」と言ってもらったりするんですけど。
草刈りを終えて、もう11時ぐらいから呑むんです(笑)。楽しいですよね。

あとは消防団にも所属しています。

甲田:
消防団については、移住希望者の方たちが気になるところです。

大岩:
(笑)、消防をどういう風にとらえるか、だと思います。
消防って、集落の兄貴分たちが集まっているわけですよね。
わいわいしながら、「操法」の大会まえになれば、週に2回とか集まるわけです。もちろん参加できない日もありますが、可能なかぎり参加しています。

そうすることで、世間話が生まれます。
そんな、なにげない話が楽しいんですよね。「行かなきゃ」って義務という感覚が入ると、とたんに地域の見え方が変わってくると思います。

甲田:
ちなみに、「操法」というのは?

大岩:
カンタンに言うと、ポンプ車をいかに使うか、をスポーツ競技に仕立てたものです。
水源に対して、ポンプを設置して、ホースを伸ばして火点に当てていく。それを、4~5人のチームでするんです。

甲田:
本当に、スポーツですよね。

甲田:
ところで、地域活動について、大岩さんは教員だったわけですが、その経験を生かして小学校のお手伝いはされているんですか?

大岩:
はじめは、そういうお手伝いもできるかな、と思っていたんですけど。
いらないんですよ、僕なんて。それぐらい、地域の方がもう入っているんです。

教育をサポートしたい、元教員がぜんぜん必要とされない。
それって、ステキなことですよね。

甲田:
「究極的に、教員は必要ない」という大岩さんの想いと合致しているんですね。

大岩:
はい。
総合的な学習の時間に、地域の郷土料理を教えるため、おじいちゃん、おばあちゃんが来てくれたり、薪を活用した取り組みを授業にしたり。
一緒に、竹筒燃料というものをつくって、薪ボイラーのある宿泊施設に納品したり。

そういう地域密着型というか。
郷土学みたいなものが、もうすでにおこなわれているんです。

また、中和小学校そのものが、神社の境内に建っていて。
子どもたちは放課後、校庭に出て、神社でおこなわれる秋の奉納の舞の練習を、舞の先生たちとやっていたりする。学校と地域が連携して、子どもたちを見守っている。
本当に、僕なんていらないんですよ。

甲田:
ちなみに暮らしのなかで、大変と感じることはありますか?

大岩:
予定の調整ですね、スケジュール管理です。

中和の地域活動とか、作業というのは、天候とか自然のリズムと連動しているんです。
でも、地域おこし協力隊の仕事は、事務作業だったり人をつなぐことであったり、自然のリズムと連動しているわけではない。
冬の「完全に閉山している」というのも、なかなか都会の人たちには伝わらない。
4月の頭に、「もう春じゃない?」と言われるんですけど、中和では霜が降りていますから、まだ作付けもできないんです。
4月下旬ぐらいになって、ようやく桜が満開ですから。
その時差みたいなものがあります(笑)。

現代って、じつはいろんなリズムの人たちがごちゃまぜに仕事をしていて。
そういうことに僕たちってあまり気づけていないですよね。

大岩:
たとえば、今日みたいな天気の良い日は、本当はここの整備作業をしたいわけです(笑)。雨の日には、こうして人に会ったりしたい。
でも、そういうのって調整できないですよね。
自然のリズムを見て、水路の掃除とか、秋祭りとか夏祭りとか。そういうものと、都会での仕事のリズムが合わない。
その調整が、すごく難しいです。

甲田:
中和はしっかりと雪の積もるところですよね。
冬は、大変じゃなかったですか?

大岩:
冬は、じつは今回が初体験でした。
近所のおじいちゃん、おばあちゃん、兄貴分からは「帰るんじゃねえか」と言われていたんですけど(笑)。

いや、実際、本当に寒かったです。
室内で、-4℃なんてあたりまえ。もう仕事をする気なんて起きないですよね(笑)。よっぽどの精神力がないと。
冬という季節に、身体が収まってしまっているというか。

だから、春になったら、身体が軽くなったような気がします。
春になって、野菜とか野草の苦み、えぐみ、独特の香り、そういうものをいただくと、身体が覚めていくというか、元気になっていくというか。
いつのまにか、身体と季節のサイクルが、リンクしているんです。

甲田:
では、大岩さんにとって、中和とはどういうところですか?

大岩:
こういう核心的な質問が、いちばん怖いです(笑)。

う~ん。「ふるさと」ですね。
僕は大阪生まれ、大阪育ちです。でも、大阪をふるさとと感じたことはなくて。

土に根ざした暮らしであったり、環境とか自然のリズムとともに生きていくようなことがなかったからかな。とにかくなかったんです。

甲田:
最近では、「ふるさと」を持たない人も多いと聞いています。

大岩:
そうですよね。
でもね、ここは「ふるさと」って実感できるんです
たとえば、べつのところにいて晴れていても、「はにわの森」は雨が降ってるかな、雪はどうなっているかな、とか。とても気になる。
自分の大切な軸というか、根っこみたいなものが、つねに、こことつながっている気がします。

大岩:
ふるさとがある、という喜び。
その原体験みたいなことを、イスラエルにいたときに感じたんです。

当時、イスラエルのキブツというところに住んでいて。
彼らはシオニズム運動といって、「自分たちの土地がない」という暮らしを、ディアスポラからの時代から、ずっとつづけてきて。
つまり、本当の意味で「地に足がついていない」わけです。
ようやく「自分たちの土地」にたどりついて、その大地を耕しはじめたときの喜びみたいな詩をたくさん書いているんです。

キブツに住んでいたとき。
そういうことを強烈に感じて。「ああ、自分が畑を耕すってこういうことなんだ」って実感しました。
そして、ここで暮らしはじめて。
種をまいて、苗を植えて、ってしたときに、「ああ、こういう暮らしが地に足のついた暮らしなんだ」と思って。ふるさとをもつ喜びを、とても強く感じたんです。

甲田:
ありがとうございます。
そろそろ、取材も終わりのほうなのですが、最後に、大岩さんにとっての「豊かさ」について教えてもらえませんか?

大岩:
豊かさを説明するって、難しいですね(笑)。
哲学的、というか(笑)。

ただ。
「デンマークの豊かな暮らし」を実施したとき。
集落のある家族が、そうめん流しをしていて。ふと通りがかったところ、「一緒に食っていくか」と声をかけてくれて。
その子どもたちに教えてもらいながら、デンマークのゲストファミリーの子どもたちが生まれてはじめて、そうめん流しをしたんです。
そのまま、花火もご一緒させてもらって。

親たちは、その様子をただ見守っているんです。
「デンマークに、ヒュッゲという言葉があって。家族にとって居心地のいい、豊かな時間、空間っていう意味なんだけど、いまがまさにそうだね」
そういう風な話をしていました。

大岩:
家族にかぎらず、自分にとって「ほっ」とできる時間が、自分の裁量である程度でも確保できれば、豊かなんじゃないかな、って思いました。

それから、土に根ざした暮らし方も、そうです。
拘束時間が長い、っていう話をしましたけど、でも自分の暮らしを豊かにするための拘束時間でもあるわけなんですよね。
土のついた野菜を洗う時間とか、農園を整備する時間とか。チェーンソーの使い方を教えてもらったり、メンテナンスをしたり。
拘束時間ではあるけれど、決して心がまずしくなるような時間ではない。

人、場所、時間。それが豊かさにつながっているのかな、と思います。

甲田:
みごとに締まりました!
ありがとうございます。

大岩:
(笑)、ありがとうございました。


お話を、ありがとうございました。大岩さんは、うつわが大きく、こちらのあちこちに飛ぶ質問にも、わかりやすく、うまくまとめて答えてくださいました。
「豊かに暮らすためのヒントが、ここにはやまほどあるんです」
「いつのまにか、身体と季節のサイクルが、リンクしているんです」
海外での生活を経たからこそ、いろんな角度からの「豊かさ」に気づくことができる。
移住者である僕にとっても、あらためて「ここで暮らす価値」みたいなものを実感することができました。

聞き手:甲田智之
写真:石原佑美