青くて、可愛いキッチンカーが、ゆっくりと駐車場に滑ってくる。
たこ焼きみたいだけれど、たこ焼きじゃない。なかに何が入っているかわからない、まるでがちゃポンみたいな、――「がちゃポンやき」。
もちチーズ? ねぎダコ? それとも、シウマイ?
遊びごころがたくさん詰まっていて、マルシェでも大人気。

じつは、アイデアを固めてから、わずか1年足らずで「事業化」。
「〈移住者〉ではない肩書きがほしかった」
そうありのまま話してくれた池本顕子(いけもとあきこ)さんは、等身大で魅力的。
真庭へ移住されてきた池本さんが、「思い」を「かたち」にするまで。そして「かたち」にしてから。どんなことがあったのだろう、と取材に伺いました。

起業、そして子育て。
そう。仕事と子育ての両立、というよりは、起業と子育ての両立。

そんなお話を、池本さんのご自宅にお邪魔して、「がちゃポンやき」のキッチンカーを眺めながら、聞かせていただきました。


【熱い人たちに対して、こちらも熱くないと、一緒に語りあったり、わかり合ったりってできない。自分の温度も上げていかないと】

甲田:
すみません。ご自宅にお邪魔して。(家が、ステキ、かつ快適すぎる……)

池本:
いえいえ。

甲田:
さっそくなんですけど、起業のきっかけから……。

池本:
いちばんのきっかけは、大阪から、岡山の真庭市へ嫁に来たことです。
やっぱり大阪とはぜんぜん風土が違ってて、知り合いもいないので、どうやったらみんなに馴染めるんやろう、って、いろんな本を読んだり、講演会に行ったり、いろいろして。
そんななかで、「やっぱり、みんなの輪に入っていかないと」と思って、市民会議に参加したんです。

甲田:
市民会議って、総合計画策定のために行われていた、参加者一般公募の会議ですよね。
たしか、「山中八咲(さんちゅうはっさく)」という提言書がまとめられた。

池本:
半分ぐらいが高校生だったんですけど、「真庭市の人たちって、めっちゃ熱い人たちが多いところなんやな」ってわかって。熱い人たちに対して、こちらも熱くないと、一緒に語りあったり、わかり合ったりってできない。自分の温度も上げていかないと。

そのなかで、自己紹介のときに思ったことがあって。
同じ年齢ぐらいの女性と、はじめての挨拶をしても、向こうは「〇〇協会、事務局の××です」とか「市役所の〇〇です」とか、自分の肩書きがあって。
でも、わたしは「ふつうのお母さん」みたいな。旦那がしている「アポロ美容室」の奥さん、とか。自分が主語の肩書きがなくて、それがイヤだったんです。

甲田:
わかります!
いつまでも「移住者」という立ち位置では、なんというか、都市部からのお客さんのまま、というか。そうではない「自分」を出していけたら、と僕も思っていて。
それと、似ていると思います。

池本:
ね。イベントに行っても、お客さんじゃなくて、やる側になりたい! 奥さんじゃなくて、「〇〇の池本顕子」になりたい。
そのときに、大阪やし、たこ焼き? って思ったんです(笑)。

甲田:
大阪といえば、たこ焼き!(笑)。

池本:
子どものころに、原点があって。
近所に、障がいを持ったお子さんのお母さんが、家でたこ焼き屋をされてて。わたし、そのおばちゃんが大好きで、いつも200円を握りしめて。
でも「あきちゃん、200円じゃ、たこ焼きは売られへんな。ちくわやったらできるで」って、よく、ちくわ焼きを焼いてもらっていたんです。

甲田:
大阪あるあるの、ちくわ焼き! うちは、こんにゃくでした(笑)。

池本:
そんなあるとき、家庭科で好きな食べものをつくるっていう授業があったんです。
わたし、「たこ焼きがいい」って言って、そのおばちゃんにバケツいっぱいの生地をもらって。そのとき、みんな、すごく喜んでくれたんです。それがすっごくうれしくて。
その気持ちが、ずっと頭にありました。たこ焼きって、子どももおばあちゃんも好きで、いろんな人に喜んでもらえる仕事やな、とずっと思っていたんです。

甲田:
原体験があったわけですね。
ちなみに、「がちゃポンやき」さんをするまでに、飲食業の経験は?

池本:
ないんです。銀行員をしていまして。
その後、女性らしい仕事がしたいな、って、花屋さんに転職しました。

そのときです、旦那と出会ったのは。
旦那は、こっち(岡山県真庭市)の出身で。でも当時は、大阪の美容室で雇われ美容師をしていて。わたしは、そのお客さんだったんですよ。
で、いろいろあって、わたし、岡山に行く決心をしたんです。

でも、いきなり真庭市ではなくて、岡山市内にアパートを借りて。
そうすると、彼がだんだん転がり込んできて、同棲するようになって。すると、彼の上司が「もうそろそろ結婚しなさいよ」と言ってくれたみたいで。
「ぼくを幸せにしてもらえませんか?」みたいな、プロポーズでした(笑)。

甲田:
(笑)記憶に残るプロポーズですね。

池本:
結婚したら、彼のお父さんが、彼に「はやいうちに、自分のお店を持ったほうがいい。歳いってからじゃ、若いお客さんつかまれへんぞ」って言って。
その言葉をきっかけに、独立して、真庭にお店を建てることになりました。
住むところも、真庭に移して。
アパートだったんですけど、そのアパートがたまたま出産ラッシュで。わたしたち、移住だったり、独立だったり、バタバタとここまで来てたので、「わたしも、子どもほしい!」となって。
39歳やったんかな。なかなかできなかったんですけど、ふたりでお伊勢参りに行ったら、授かったんです! 伊勢神宮に行ったとき、ダブルレインボーを見たんですよ!

甲田:
ダブルレインボー! 持ってますね!

【補助金から入るんじゃなくて、経営的な視点から入ること。】

池本:
真庭に来て、イベントがおもしろいな、って。
いろんな人と出会えて、つながれて。大阪から来て、同級生もいなくて、親戚もいない。真庭市には知っている人が、主人しかいなくて。
もっと自分から接点をつくっていきたいな、と思って、関わっていくには、何かしてたほうがいいですよね。

甲田:
そうして、たこ焼きをはじめよう、と。
はじめから、移動販売のプランだったんですか?

池本:
いえいえいえ。最初は、もう家の敷地内で、固定のお店をやりたい、と思っていたんですけど、保健所さんに電話をしたときに言われて。
「そこで、お店を建てて、ちゃんと営業利益を出していけるんですか。そこに、お客さんが来ると思われるんですか」って。

甲田:
けっこう、ズバッと言うんですね(笑)。

池本:
(笑)でも、そうかもしれん、って思ったんです。
それなら、移動販売で、自分からクルマで売りにいけばいいんじゃないの、と思って。そうしたら、保健所の人も「それはいいかもしれません」って。
でも、移動販売をするにしても、小屋はいるんです。

甲田:
そうなんですか。

池本:
自宅のキッチンで仕込むのは禁止されているんです。
食材が、冷蔵庫のなかで家庭用と一緒になっちゃって。何かあったときに、原因を追究できなくなってしまう。衛生的にもよくない。
だから、ちゃんと公共施設の炊事場を借りるか、飲食店の調理場を借りるか。もしくは、自分で仕込み小屋をつくるか。
で、いちいち公共の場を借りるのは、きっと億劫になってしまう。間借りも気をつかう。だったら、自分の仕込み小屋がほしいなあ、って。

池本:
そうして、仕込み小屋と移動販売車の準備を進めていきました。
ただ、調べていくうちに保健所の「規定」というのがあって、でも管轄の保健所によって違っていて。営業許可の金額も違っていたりするんです。

甲田:
京都は厳しい、って聞いたことがあります。

池本:
そうなんです。
で、同時に移動販売車の改造も進めていて。もうほんと、いろんな方とのご縁に恵まれて、助けていただいて。
いろいろしているうちに、思っていた以上にお金がかかってしまって。でも、先に払っちゃったものは、補助金っておりないんですね。やっているうちにわかって。「あとで補助金もらえるわ」と思って、クルマを買って、小屋も契約して、みたいな感じだったんですけど。

甲田:
じゃあ、もしかして?

池本:
小屋のほうは契約を止めたんですけど、クルマのほうはもう、お支払いしちゃっていたので出ませんでした。

甲田:
ちなみに、その補助金というのは、起業支援事業の補助金ですか?

池本:
そうです。

甲田:
僕も受講したのですが、「まにわ創業塾」に参加して、創業の知識を身につけたら、補助額の上限が、100万から150万に拡大される(補助率は、1/2以内)という……。

池本:
出てないんです。それもあとで知ったことで。補助金を「申請します」と言ってから、はじめて教えてもらったことばかり。ほんとに、まっさらで、何もわからなくて。
しかも、転がりはじめていたので、だから起業を考えている人は、まず資金繰りのことを考えて、補助金を活用するなら、要項のチェックもぜひ。

ちなみに、必ず補助金全額を使ったほうがいいとは思っていません。
たとえば補助率が、1/2の場合、50万円の器材を購入して、25万円の補助が出たとしても、実費で25万円はかかるわけですよね。
中古で揃えたら、そもそも25万円そのものを出さなくていいかもしれない。そういういろんな選択肢を持っておくことで、よりスムーズに起業できるんじゃないか、と思います。

甲田:
たしかに。補助金から入るんじゃなくて、経営的な視点から入ることですね。

【自分も、身体も、ムリをしない。子育てもしながら、やれる範囲でやっていこう、と思いました。】

甲田:
ちなみに、「がちゃポンやき」というコンセプトと名称はそのときから?

池本:
最初に、たこ焼きの試食会をしたんです。
北房(ほくぼう:真庭市南部の地域)のお友だち、塩津さん・平泉さんにも食べてもらって。「うわあ、本場大阪のたこ焼きや」って、「うまいな」って喜んでくれて。
そのときに、「屋号は?」と尋ねられて、「アポたこかな」って。

甲田:
「がちゃポンやき」じゃなかったんですね。

池本:
まだそのときは、旦那の「アポロ美容室」の事務をしながら、片手間にやろうと思っていたんですよ。だから、アポロ美容室のたこ焼き部門で、「アポたこ」かなって。
アポロ美容室の名前を決めるときも、「パピプペポに、人は弱い」って、なにかの本に書いてあったんです。頭に残るらしくて(笑)。

甲田:
「アポたこ」いいですね。

池本:
でも、「アポたこ」だと、結局「アポロ美容室」の奥さんのままで、本来の「自分が主語の肩書きがほしい」からは外れちゃうな、と。
そのときに、たまたまムスメが「ガチャガチャ」にハマってて、そこから着想を得て、「がちゃポンやき」にしよう、って。なにが出るか、わからない。タコ以外のものも入れてみよう。そう相談したら、塩津さんも、平泉さんも「ええやん。絶対、いける!」って。

甲田:
「がちゃポンやき」誕生の瞬間ですね!

池本:
それからは、ホントにもう走りつづけて。
塩津さん・平泉さんに相談したのが2月で、7月の花火大会ではデビューしていたので。目まぐるしくて、とにかくスゴいスピード感でした。
もちろん、失敗もあったので、気持ちの浮き沈みも激しくて、「やるぞ!」「ああ、ダメか」「いや、いくぞ!」「ああ、やっぱりダメか」「なんのなんの」を何度も、何度もくり返しました。

デビューしてからも、必死でした。
呼んでもらったイベントにはとにかく這ってでも行って。そして。

甲田:
そして。

池本:
はい。そして、翌年1月のイベント、出店前にぶっ倒れました。

甲田:
それは、急病で?

池本:
急病、というか。たぶん、いろんなプレッシャーからだったと思います。
目がぐるぐるまわって。起き上がれなくなって、寝込みました。でも、そこでわかったんです。「選んでやらないけん。あれもこれもはいけん」って。
スタートアップだったので、イベントに呼ばれたらうれしくて「行きます!」って。でも倒れてからは、絞って、絞って、やっていこうと思いました。

甲田:
地方のイメージにある「スローライフ」は、用意されているものではなくて、自分で「スロー」につくっていくものというか。
仕事の仕方によっては、どうしてもビジーライフになってしまう。あらら、スローライフってどこに行ったんだろう、って(笑)。

池本:
自分も、身体も、ムリをしない。
子育てもしながら、やれる範囲でやっていこう、と思いました。

甲田:
長くつづけるためには、健康管理もひとつですよね。

【子どもが絶対に優先、仕事が絶対に優先、とかあえて決めずに、ひとつずつ丁寧に。】

甲田:
ところで、池本さんがされている「がちゃポンやき」のキーワードに、「子育て」もあると思うんです。仕事と子育てを両立されている。

池本:
ありがとうございます。
でも、子育てって、本当に正解っていうのがなくて。
それでも、わたしは「やっぱり娘に笑っていてほしい」「ムリをさせたくない」「泣かしてまでは、したくない」と思いながら、がちゃポンやきをしています。

ただ正直なところ、どうしても泣かせてしまいそうになることはありました。「いやいや、わたしだって仕事がしたいのに」って。でも、そんなときは主人がちゃんと叱ってくれて。
娘は健気に、「お母ちゃん、応援してる。わたしもがちゃポンやき好きやから」って言ってくれるんですけど、それってもうムリをさせているんですよね。

甲田:
池本さんのお子さん、僕もよく知ってて。
めちゃくちゃ素直で、ほんとに良い子。がちゃポンやきの看板娘ですよね。

池本:
ありがとうございます。
たぶん、わたしが焦っていたんだと思います。
イベント出店とか、「断ったら、次がないかも」と思っていたので。でも反対に、出店したら出店したで、「子どもがいるのに、大丈夫?」って言われてしまう。
どっちにしろ言われるんだったら、「自分が納得できるものを選んだほうがいい」と思うようになりました(笑)。

それからはひとつひとつ丁寧に考えて、「ここはやろう。ここは主人に頼ろう。ここはわたしが送り迎えしよう」って。娘の体調とか、自分の体調、主人の仕事の具合を見ながら。

甲田:
まさに、ケース・バイ・ケース。ほんと、「ケース・バイ・ケース」って、仕事と子育ての両立を考えるときの、ひとつのキーワードだと思います。

池本:
たしかに、子どもが大切やけど、仕事がしたいときもあるよね、って。
子どもが絶対に優先、仕事が絶対に優先、とかあえて決めずに、ひとつずつ丁寧に、ここは子どもを優先しよう、ここは仕事を優先しよう、って。総合的に判断しています。
出店するイベントも、仕込みの手間など考えながらです。

でも、イベントはやっぱり楽しくて。出店する側になって、はじめてわかったんですけど、お客さんが切れてしまっても、まわりの出店者さんと話をしたり、つながりが生まれたり。

甲田:
アポロ美容室の奥さんから、「がちゃポンやき」の池本さんになったわけですね。

池本:
はい、そうなんです。

甲田:
イベントといえば、最近、真庭市はマルシェ系のイベントが増えていますよね。

池本:
都会と違って、真庭市は地元有志が実行委員を務めているイベントが多いと思います。
大阪だと、大企業によるPRのためのイベントだったりが多いんですけど、真庭市は若者でわいわいやっている感じですよね。
だから、とても自然です。しかも、しっかりとつながれる。「つながり」にちゃんと価値がある、というか。

甲田:
なるほど。
そのなかでも、「がちゃポンやき」さんは際立っていると思います。

池本:
「がちゃポンやきって、大阪のどのあたりの発祥なんですか?」と、いまでもよく聞かれるんですけど、「発祥は、わたしなんです」って(笑)。

甲田:
(笑)最高です! ほんと、いい雰囲気ですよね。

池本:
コンセプトが、「食べてくださった方が笑顔になってもらえるように」と「おいしくって笑っちゃう」で。友だちに言ってもらったんです。
「なにか起業するんだったら、最初にコンセプトを持っておかないと絶対につづかないし、いちど決めたら、絶対に変えてはいけない」
しかも、「コンセプトは、夫婦で考えること」って。「パートナーの理解がないと、女性は仕事がつづけられないから」って言ってくれて。ひと晩かけて、主人とコンセプトを考えました。
「あなたががちゃポンやきを食べて、笑顔になってくれたら、わたしも幸せ」
その言葉は、英語にして、がちゃポンやきのロゴにも入っています。

甲田:
ゼロからアイデアをカタチにして、コンセプトを立てて、人とつながっていく。
はじめの一歩、すごい勇気ではなかったですか。

池本:
ある方がね、わたしたち夫婦に言葉をくれたんです。
主人が真庭へ戻ってきて、美容室をはじめたものの、お客さんがなかなか来なくて、ふたりとも落ち込んでいたときでした。その方は、パッと見た印象で言葉を贈ってくれる方で。わたしたちをパッと見て、言葉をくれたんです。

「まず一歩。その一歩に気持ちを込めて」

そういう言葉でした。ほんとにそうですよね。「これでやっていくんだ!」ってどれほどその一歩に気持ちを込められるか。覚悟、というか。大きな一歩じゃなくていいんです。自分のサイズに合った一歩で。わたしもそうでした。
でも、踏み出したら、もう行くしかないんです。どんどん広がっていくので。

甲田:
広がり・つながりのスピード感は、真庭ならではですよね。
とくに池本さんは、現場でプレーヤーとして動きながら、同時に経営もしている。いわゆるプレイングマネージャーですが、その仕事術にコツってあるんですか?

池本:
思いついたら、すぐノートに書き留めるようにしています。家事をしているときに思いつくこともあるので、忘れないようノートに書いて。

あと、なかなか見えづらい部分なんですが、試作をものすごくするんです。材料とか分量とか調理法とか、そういうものによって味が変わってくるので。だから、そのたびにノートへ残すよう心掛けています。

【本当に困っていらっしゃる方っていうのは、なかなか声を上げられないんだなって。だからこそ、そういう声に耳を傾けられたら、って思います】

甲田:
移住を考えるうえで、心配なのが「人付き合い」だったりすると思うのですが、その点はいかがでしたか?

池本:
そうですね。いいところ探しをすることですかね。
自分の体調とか、気持ち次第で、どうしてもネガティブに受け取ってしまうことがあるんです。
初対面のときは仲良くなれても、おたがいのことを知っていくにつれて、甘えが出たり、優位に立とうとしたり、自分のことばっかりを押しつけてしまったり。

その結果、もっと仲良くなりたかったのに、疎遠になったりしたり。
移住先に限らないことだと思うんですけど、ほんと、あら探しではなく、いいところ探しをすることだと思います。

甲田:
都会だから、地方だから、は関係なく、「人を大切にする」ことですね。

池本:
相手のいいところを見ていると、相手もわたしのいいところを見てくれるので。
これからの移住さんに対して、わたしがそういうことをできれば、と思っています。

実際、移住というか、こども園に転入されてきた方とかいらっしゃるんです。入ったばかりで、輪のなかにちょっと入りづらそうにしているお母さんとか。
そういう人たちのお役に立ちたい、ってすごく思います。「わたしで良ければ」って。

甲田:
それは、池本さん自身もそうだったから感じることだったり?

池本:
そうですね。やっぱり真庭へ来たときは、ピリッとしていたと思います。わたし自身。

そのときに思ったんです。
本当に困っていらっしゃる方っていうのは、なかなか声を上げられないんだなって。だからこそ、そういう声に耳を傾けられたら、って思います。
聞いてみたら、「そんな悩みを抱えていたのか」って。皆さん、ほんと、いろんな悩みを抱えているんですよね。それでも明るく笑って、「子どものために」とがんばるんです。

甲田:
池本さんの優しさが溢れていますね!

池本:
(笑)模索しながらですけど。

甲田:
模索されているんですか! もう充分、溢れています。

また、これから起業を考えられている方へ向けて、メッセージをいただければ。

池本:
ほんとにもう、覚悟ですかね。やっぱり。
まずは、この仕事で「自分を幸せにする」という覚悟。自分が幸せじゃないと、人を幸せにすることはできないので。
自己犠牲をしているあいだは、「本当の幸せ」を相手にそそぐことはできない、と思っているんです。なので、「仕事を通じて、自分、自分のまわりを幸せにするんや」という覚悟があるかどうかです。

甲田:
ありがとうございます!

池本:
でも、そういうこともいま、やっと言えるようになってきたところだと思います。
ほんとに、無我夢中でした。倒れるまで無我夢中で。信頼を裏切らないように、いただいた仕事は必ずやりきる、というふうに。
ただ、倒れてからは「ご縁」でつながっていくことをほんとに感じて。同じ出店者さんとかお客さんとか、その「ご縁」がまた新しい「ご縁」につながっていきました。

甲田:
真庭市には、そういう土壌がある、ということですよね。

池本:
目立つのか、真庭市内を走っていたら、皆さんよく手を振ってくれます(笑)。

甲田:
(笑)わかります! 町なかでがちゃぽんやきさんの青いクルマを見たら、テンション上がりますもんね。

池本:
このまえも、甲田さんに手を振ってもらってうれしかったです。

甲田:
僕のほうこそです(笑)。

池本:
あと、起業を考えられている方、なかでも飲食店を考えられている方の役にも立てたらいいな、と思っています。
飲食関係で起業したいけど、保健所のことがよくわからなくて踏みとどまっている人って多いんじゃないかな、って。許可が通るのかとか、売っていいのかとか、こんな場合はどうなんだろうとか。
そういう人たちが、わたしみたいに時間をかけることなく、パッと進めるようになれば、もっと真庭市に飲食店が増えるんじゃないかなって。

甲田:
たしかに、飲食店をしたことがない人にとっては、保健所ってなんだか怖そうなところというイメージがあります。

池本:
そうじゃないんです。
お客さんに迷惑かけたくないし、わたしも事故を起こしたくないし。それは保健所も一緒で。お金がかからない方法とか、経営的なアドバイスとか、そうして一緒につくっていけるところが保健所だと思っています。
ときに、人の命に関わるところですから、「厳しい」というイメージもムリはないんですけどね(笑)。でも、それは当然のことです。

甲田:
二人三脚になれるところなんですね。

池本:
だと思います。
わたしも保健所の方にアドバイスをいただいて、移動販売を思いついたので。

甲田:
横のつながりをとても大切にされている、池本さんの飾らない人間力があるから、「おいしさ」だけではない、魅力・広がりが「がちゃポンやき」さんにはあるんだと思います。

池本:
(笑)ありがとうございます。

甲田:
こちらこそ、ありがとうございます。……では、ぼくもそろそろ「がちゃポンやき」を(笑)。

池本:
(笑)どうぞ、どうぞ。


その後、わたくし甲田は、遊びごころたっぷり。はふはふ美味しい「がちゃポンやき」をたくさんいただきました。池本さんと話に花を咲かせながら。

じつは、はじめて池本さんとお会いしたのは、ちょうど池本さんが「がちゃポンやき」の構想を固めつつあったときでした。
そしてそのつぎに会ったときには、もう「がちゃポンやき」のキッチンカーが完成していました。あまりのスピード感に驚くばかり。
ただ今回の取材を通して、そのあいだのいろんな苦労も聞かせていただきました。

聞かせていただくなかで、池本さんの「事業化への道」そのものが、「がちゃポンやき」みたいだな、とか考えていました。
どんな人に出会うか、出会ってみなくちゃわからない。でも、その出会いどれもが、とても魅力的。「がちゃポンやき」のひらくときのドキドキ感とか、どれを食べてもおいしいこととか。なんだかリンクしているなあ、って。

人を笑顔にしていくこと。
そのためにも、まずは自分が笑顔でいること。

その言葉どおり、池本さんの笑顔。家族の雰囲気がとても印象的でした。なにより「自分もなにかはじめてみたい」という気持ちにさせてくれる時間。

そんなことを思いながら、ついつい、つぎの「がちゃポンやき」に手がのびました。なにが入っているのだろう。

「あ、オムライスが入ってる」

聞き手:甲田智之
写真:石原佑美